自動車業界は中期的に堅調な成長持続。部品業界は高水準の設備投資継続能力が重要 《ムーディーズの業界分析》

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コーポレートファイナンス・グループ
シニア・バイス・プレジデント 八巻純一
アナリスト 桜林 潤

 日本の自動車業界の見通しは安定的である。この見通しは、今後12−18ヶ月間の同業界のファンダメンタルな信用状況に対するムーディーズの見方を反映しており、自動車メーカー各社の強固な営業基盤、技術戦略の継続的な進展、良好なブランドイメージ、現行のコスト削減施策を根拠としている。日本の自動車メーカーの見通しを安定的とする主な理由のひとつは、売上が中期的に堅調な成長を続けるとの見通しである。トヨタとホンダは販売台数を増やしており、両社を合わせると世界市場の拡大幅の40%を占める。同時に、日本のOEMメーカーはさまざまな市場で地位を強化し、世界市場シェアを伸ばしている。

 ムーディーズでは自動車メーカー5社(下表)に格付けを付与しているが、現在の見通しは、3社(トヨタ、ホンダ、いすゞ)が安定的、2社(日産、三菱)がポジティブである。ムーディーズは2008年に三菱をBa3からBa2に、いすゞをBaa3からBaa1に格上げした。

格付け対象の自動車メーカー
発行体 格付け 見通し
トヨタ自動車 Aaa 安定的
本田技研工業 Aa3 安定的
日産自動車 A3 ポジティブ
いすゞ自動車 Baa1 安定的
三菱自動車工業 Ba2 ポジティブ
(2008年7月現在)

 自動車業界は資本集約性が高いため、利益が大きく変動しやすい。業界サイクル他さまざまな課題に対応する経営陣の対処の違いから、競争力の高いメーカーと低いメーカーとの間に大きな格差が生じている。

 先進国の自動車市場では、中期的にほとんど成長が見込めないため、日本の自動車メーカーは、次の項目に焦点を絞って他社との差別化を図ろうとしていると、ムーディーズは考えている。つまり、ブランド力の強化、新モデルの継続的な開発・投入、工場の稼働率の引き上げ、調達コストの削減、収益源の地理的分散化、プラットフォームの統合によるスケールメリットの追求、環境規制と安全性の問題に対応する技術力の強化である。 主要なトレンドと格付けへの影響
1)地理的分散性が増収を支える
 自動車業界は成長産業であるが、先進国市場は停滞している。急速な成長が期待できるのは、自動車保有率が極めて低い発展途上国である。日本のOEMメーカーは北米、欧州の先進国市場を含むさまざまな市場で地位を強化し、世界市場シェアを伸ばしている。

2)燃費向上のための技術
 日本の自動車メーカーは、自動車の環境対応技術において主導的地位を維持するとみられる、また燃費向上のための設計・生産技術を有していることから、現在北米で需要が強い乗用車とクロスオーバー車の投入で市場環境の悪化に比較的上手く対処できるとみられる。

3)コスト高が利益率を圧迫
 原燃料コストの高騰と円高を要因として、日本の自動車メーカーの今期の業績は全体的に減速する見通しである。とはいえ、日本のメーカーは新モデルの価格設定の引き上げに向けた取り組みや、継続的なコスト削減施策によって、原材料コストの上昇を一部相殺できるであろう。

4)品質管理とコスト削減
日本のメーカーは、カンバン方式、混流生産、部品メーカーとの互恵的関係など、製造工程の開発を先導してきた。製品の品質と生産効率を向上させるために、製造工程の開発と改善に多大な時間と費用をかける必要がある。日本メーカーでは、従業員が効率的改善と品質管理に取り組むよう訓練されており、これによって、コストを抑制し、製品の質の高さを維持している。

5)海外生産
日本メーカーの海外生産比率は現在50%を上回る。生産拠点の地理的な分散化は為替変動の影響を緩和するとみられる。したがって、日本のOEMメ−カーの収益性は、海外メーカーに比べて高い水準を維持するとムーディーズはみている。

6)強力なブランドがファンダメンタルズを支える
 自動車メーカーが需要の変動に対応するために、どの程度広い製品範囲に収益を分散させているかにムーディーズは注目する。日本のメーカーの躍進を牽引してきたのは、消費者の嗜好の変化に応じた製品の提供である。新製品の継続的な開発が極めて重要であるが、日本のメーカーはクロスオーバー車、高級車、中型セダン、小型車、環境対応車など、セグメント間のバランスをとりながら、モデルラインアップを強化し、新モデル投入の効果から恩恵を受けるとみられる。

7)流動性
日本のメーカーは多額の現金、有価証券を有しており財務の柔軟性が高い。主要取引銀行が提供する多額の外部流動性も有する。したがって、流動性は潤沢であるとみている。
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