ダイバーシティ 山口一男著/森妙子挿絵 ~より豊かな創造のため「多様性」の意味を考える

ダイバーシティ 山口一男著/森妙子挿絵 ~より豊かな創造のため「多様性」の意味を考える

評者 YSコンサルティング代表 黒田康史

 西欧社会では当たり前となっている「ダイバーシティ(多様性)」も、「村社会文化」や「横並び主義」に慣れ親しんだ大半の日本人にとっては、あまり馴染みのない言葉だろう。しかしグローバル化が進み、世の中の変化がいっそう激しくなってくると、この「ダイバーシティ」が重要になってくる。その点本書は、読者がこの「ダイバーシティ」の本質を理解し、それについて深く考えるうえで最適の書と言える。

本書では、二つの物語を題材に議論が繰り広げられている。前半では、著者オリジナルのファンタジー小説を題材に、個人にとっての「ダイバーシティ」の意味を学ぶ。人が一人ひとり違うことはむしろよいことであり、そのよさを本当に理解するためには、お互いを認め合い、支え合うことが大切であるという、物語を通しての主張には説得力がある。

本書の後半では、お馴染みのイソップ童話「ライオンと鼠」の日本版とアメリカ版の違いを題材に、日米規範文化比較論を日米の学生が議論する「教育劇」が展開されている。ここでは、前半の議論からさらに一歩進んで、社会にとっての「ダイバーシティ」の意味を考える。読者は、日米の学生のさまざまな視点や考えに触れることにより、皆が協力して何かを作り上げようとするとき、人が一人ひとり違うからこそ、同じような人が集まってやるよりもより豊かな創造を生み出せるということを実感できるだろう。

この「教育劇」ではまた、読者は社会規範についてもいろいろ学ぶことができる。育児に関する規範の議論や「空気が読めない」人を嫌う若者文化に関する議論を中心としたさまざまな議論で、著者はこれからの日本社会の規範形成を考えるために役立つ多くのヒントを提供しているが、考えるのはあくまで読者だ。ここで、望ましい社会規範が「ダイバーシティ」の尊重と矛盾しないということは、わざわざ著者の指摘を待つまでもないだろう。

興味深いのは、米国生活の長い著者が、子育てや教育、若者文化等、多くの点で現在の日本社会に対して違和感や懸念を示していることだ。特に、社会性のない個人的利益の追求が規範に取って代わっている社会、知識の詰め込みばかりで深く考える力をつけない教育、電車内で大きな声で騒いでいる小さな女の子に対する母親、物質主義的で自尊心の低い若者についての議論は印象的だ。

本書をきっかけに、一人でも多くの人が、「ダイバーシティ」を尊重し、望ましい社会規範の担い手になることを、是非とも期待したい。

やまぐち・かずお
シカゴ大学ハンナ・ホルボーン・グレイ記念特別社会学教授。2008年秋学期よりシカゴ大学社会学科長。経済産業研究所客員研究員。東京大学理学部数学科卒業。コロンビア大学助教授、UCLA准教授を経て1991年より現職。

東洋経済新報社 1890円  226ページ

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