再挑戦するユニクロ--フリースブームから8年、V字回復に見る自信

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新機能だけでは売れない「必要なのは社会学だった」

実は、ヒートテックもブラトップも07年度発売の新商品ではなかった。いずれも3~4年前から扱っていて、販促を打たなくてもシーズンごと倍々で売り上げを伸ばしていた商品だった。それ自体は特に目新しい新素材でも新機能でもない。だが、ヒートテックは吸湿保温効果に優れた肌着を重ね着アイテムとして打ち出した点が、ブラトップは、下着メーカーに勝るとも劣らないモールドカップをカジュアル衣料と合体させた点が支持を得たのだ。

「私たちに必要なのは社会学だとわかった」と、白井恵美ウィメンズMD部長は言う。デザイナーが持つ豊富なアイデアを基に、全国隅々まで必要とされるかどうか、潜在的なニーズに応えられるかどうかを探ることが重要なのだという。あるデザイナーが語る。「今やファッションの世界に新しいアイテムなんてない。新機能を打ち出しても着てすぐわからなければ、ないのと同じ。100万枚売るにはすでにあるもので新しい提案をするしかない」。ユニクロでは、芸術的なセンスの有名デザイナーよりも、結果として数を売れる商品を作るデザイナーのほうが高い評価を得られるわけだ。

では、すでに売れている商品を、どうやってヒットにまで持ち込むか。

商品の企画は通常、発売の1年以上前から始まる。アイテムごとに色別・サイズ別の発注量が決まるのは大抵半年前。一方で、プロモーションやキャンペーンは、そのときどきのトレンドを反映させなければならない。キャンペーンの企画を開始するのは早くても発売3カ月前。それゆえ、たとえば紫は5%しか作っていないのに、キャンペーンで紫を大きく打ち出したため、欠品を出してしまうような失敗を頻発していた。

そうしたミスが、最近なくなりつつある。商品本部が推す商品は、初期段階から生産、販促、マーケティング、売り場が一体となってキャンペーンを企画する。発注段階では総生産量と打ち出す色を仮決めして、原材料を調達する。販売時期が近づいたところで、再度確認し本決定する。シーズン中、予想外に別の色の動きがよくなれば、即追加発注する。在庫マネジメントと合わせて、売りたいものを確実に売ることができるようになった。恒常的な課題としてずっと取り組んできたことだが、これも“練習”を繰り返すことで、精度が高まったことの一つなのだ。

ファーストリテイリングが10年8月期に掲げる「売上高1兆円」の内訳は、国内ユニクロ6000億円、海外ユニクロ1000億円、M&Aで2000億~3000億円。だが、ユニクロの海外展開は、08年8月末でも50店そこそこで、売上高も300億円程度。今後3年、年率80%のペースで伸ばすという意気込みだ。

柳井氏の目線はアジアにある。「世界一の前に『アジア一』を言い始めたのは今年が初めて」(大苫氏)。

中国は早期100店体制に向けて出店を加速しているが、中国でのユニクロは、日本におけるブランディングとはやや異なる。店頭に並ぶ商品は日本と同じだが、大衆向けではなく比較的裕福な層向けの、ちょっと高級な海外ブランドという位置づけである。日本のようなペースで出店できるかといえば、「客がいないわけではないが、日本で展開しているような勝ちパターンは通用するかどうか」(中国の小売りに詳しい関係者)と疑問の声も上がる。

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