再挑戦するユニクロ--フリースブームから8年、V字回復に見る自信

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再挑戦するユニクロ--フリースブームから8年、V字回復に見る自信

今からおよそ1年前、日本列島は9月下旬にもかかわらず気温30度を超える真夏日が続いていた。百貨店やショッピングセンターの店頭は、ちょうど秋物一色に衣替えしたばかり。「異常気象に打つ手なし」。閑散とした店頭を、各社ともただ見守るしかなかった。11月に入り、気候はようやく時季相応に戻った。が、それでも客足は戻らない。書き入れ時の12月になっても、店頭は活気を欠いたまま。ここに至って、小売り関係者たちはようやく気づく。衣料品が売れない時代についに足を踏み入れたのだ、と。

一方、ユニクロの店頭。9月こそ既存店売上高は前年比87・1%と大きく落ち込んだものの、10月には活気を取り戻していた。「ヒートテックインナー」、カシミヤセーターなどのヒットを連発。今春以降も、他店が「ガソリン高の影響で平日の来店客がめっきり落ち込んだ」と嘆くのをよそに、「ロードサイド店も客足は落ちていない」(吉高信ファーストリテイリングCFO)と、完全な独走態勢に入ったのである。

賢い消費者とらえる 進化した「緻密さ」

「不況のときこそユニクロが売れる」。1998年から2000年のフリースブームを思い起こし、こう分析する関係者は多い。消費者が財布のヒモを固く締め、価格にシビアな目を向けるとき、単価の低いユニクロの服に注目が集まるのは当然の流れともいえる。

しかも、今やユニクロ商品の「安さ」は単純な安さではない。詰め込まれた品質は年々進化している。

あるアパレル関係者がこんな試算をする。「3990円のユニクロのジーンズを、卸中心の大手デニムメーカーが同じ原価で作れば、販売価格は8000円を超える。さらに、スケールメリットを生かしたユニクロの調達力まで考慮すれば、同じクオリティで作ると1万2000円以上の値札がつくだろう」。消費者もこうしたカラクリに気づき始めている。「10年前に比べれば消費者も賢くなった。かつて以上にバリュー・フォー・マネーが重要視される時代」(別のアパレル幹部)なのだ。

ファッショントレンドがユニクロのテイストに合致してきた、という指摘もある。小島ファッションマーケティングの小島健輔氏によると、ちょうど去年の秋口から、ファッションの流れに明らかな変化が訪れたという。「ラグジュアリー、セレブ、トレンド、モードから、今は圧倒的にチープシック(安いモノをかっこよく着こなす)が主流。そこにユニクロの無味無臭、上質、ベーシックがハマる」(小島氏)。特に若い女性のファッションは、06年春ごろから、重ね着を楽しむ「レイヤードスタイル」の人気が続いている。おしゃれに見えるインナー系商品を少しずつ買い足していくのに、ユニクロはピッタリなのだという。

マーケットを観察すれば、ユニクロが元気な理由はいくつも見つかるが、その好調が前06年度の不振を経た後の飛躍であること、他社が軒並み苦戦していることを考えると、それだけでは説明がつかない。

ところが、ファーストリテイリングの社員に、ユニクロの何が変わったのかを尋ねても「特に思い当たらない」という答えが大半を占める。

ユニクロCOOも務める大苫直樹ファーストリテイリング専務は「あえて言うならば」と前置きしたうえで、「06年度と07年度で変わったのは“緻密さ”」と答える。ドラスチックに何かを大改革したわけではない。部署の新設や増員などは日常茶飯事。むしろ1店当たりの効率を上げることや、売り上げと在庫のバランスをコントロールすることは、恒常的課題としてずっと取り組んでいる。その精度がこの1年で少し向上しただけなのだ、と言う。

「商売もスポーツと同じで、練習すればうまくなると柳井もよく言います(笑)」と大苫氏。フリースブーム後の8年間を振り返ってみると、“練習”を重ねたユニクロは、着実に商売がうまくなっている。

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