「日本の97年当時に酷似 警戒すべき『第2の危機』」−−五味廣文 前金融庁長官

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--金融機関への予防的な資本注入は、政治的に難しい。

それはまさに90年代の日本が経験したことだ。バブル崩壊後の92年に、当時の宮澤喜一首相が公的資金投入の必要性に言及したが、誰も理解を示さず、そのまま事態はどんどん悪化した。確かに公的資金を使った予防的措置は政治的な対処を必要とするため、コンセンサスの形成は難しい。しかし、金融のシステミックリスクに至るまで事態を放置すれば、その代償は大きく、実体経済へ多大な悪影響を与える。これに対し、日本で行った予防的な資本注入約10兆円は現在までに利益を生んで回収できている。

--日本では99年の第2次公的資金注入後も、企業の大型倒産が相次ぐなど2003年ごろまで経済と株価の混迷が続きました。米国でも実体経済の悪化が懸念されます。

99年に公的資金を投入しても、実体経済のほうがついていけず、デフレスパイラルが懸念される状況に陥った。バブル崩壊後の「第2の危機」といえる。00年ごろから不良債権が一段と膨らみ、01年夏にはマイカルの社債が一気に4ノッチ(段階)の格下げになったり、企業の手形サイト短縮化が進むなど信用不安が広まった。同時に、マイカルのメインバンクの引き当て不足が明らかになるなど、銀行のリスク管理能力への不信感が表面化した。

そこで小泉政権の「一丁目一番地」政策として不良債権処理が掲げられ、実態解明のために大手行への特別検査を実施した。その結果、02年3月末で26兆円の不良債権があることがわかり、資本増強のため大手各行は一斉に自力増資した。それが十分にできなかったりそな銀行に公的資本増強が行われ、これでマーケットの疑念は完全に払拭されて画竜点睛となった。

言えるのは、不良債権問題が深刻化するほど、実体経済への悪化リスクは増し、それがまた不良債権を膨らませるという悪循環に陥りやすいということだ。米国の実体経済に不安が高まっているとすれば、より早急に対処する必要がある。

--金融危機の収拾までにどれくらいの時間がかかるでしょうか。

何年といった形で明確に予想することは難しい。ただ、あと半年ぐらいで解決するというほど生易しいものでないことは確かだろう。

ごみ・ひろふみ
1972年東大法卒、大蔵省(現財務省入省)。81年ハーバード大ロースクール卒。2001年金融庁検査局長、02年同監督局長、04年同長官。07年退官。現在、西村あさひ法律事務所顧問。

(撮影:梅谷秀司)

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