日本の企業人は、「日本」にこだわりすぎる JTのエースと語る、日本企業のこれから(下)

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日本人は「日本人」にこだわりすぎる

瀧本:筒井さんは、帰国子女だと伺っていますが、日本的な「空気を読む」カルチャーになじめないところがありますか。

筒井:必ずしも場の空気を読むのが得意ではないですし、周りから「あれ、この人変」って思われていることを感じる能力は、ものすごく低いですね(笑)。

父親の仕事の関係で、5〜9歳までアメリカで過ごし、日本に帰ってきたのが1980年代前半でしたが、当時、帰国子女はすごく珍しい存在でした。しかも、アメリカから日本でしたので、文化のギャップがすごくありました。

アメリカでは、「わからないことがあれば手を挙げて、質問しなさい」と教えられていましたが、日本でそれは通じません。よく覚えているのですが、日本に帰ってきてすぐ学級委員の選出があり、「俺は新参者だから、ここで貢献しよう」と思い立候補したんです。そうしたら対抗馬がいなかったので、「ラッ キー、俺で決まりだ」と思ったのですが、先生が推薦候補を出してきて、結局、私には1票しか入りませんでした。幼心にものすごくショックを受けたのを覚えています。

――最後に、筒井さんから、同世代のビジネスパーソンへ何かメッセージを。

筒井:ひとつ目は、「僕は出世を意識して仕事をしてきていない」ということです。「もっと達成したい」「もっと実現したい」「もっと会社をこうしたい」という思いにド ライブされた結果、今のポジションにいるのだと思っています。ただ単に出世を目指すのではなく、「自分は何を成果として上げたいのか」について鋭敏であり続ければ、きっと仕事をもっと楽しくできるはずです。

もうひとつは、日本人であることを必要以上に意識しなくてもいい気がします。日本に帰ってきて違和感を覚えるのは、新聞や雑誌などいろんなメディアで、「日本人」という言葉があふれていることです。

「日本人」をあまり意識しないで、まずは個人として際を立たせてほしい。「際を立つ」というのは、偉くなることではなくて、何かを実現したり、達成したりする中で、自分を立てていくことです。日本の中で「日本人ってこうだよね、ああだよね」と言うよりは、際の立った日本人がたくさん集まって、その結果として海外から「日本人ってこうだよね」と言われるぐらいのほうが健全ではないかと思います。

瀧本:個性がない人ほど、日本にこだわる傾向がありますよね。ほかに特徴がない人ほど「日本人、日本人」と言いがちです。

筒井:私はそこまで言えないですけど(笑)。

私は、やっぱり楽しい仕事をどんどんやりたいですし、大企業だからこそできる楽しみ方があると思います。創業者や社長になってしまうと、背負っているものが違いますから。

私は私なりに企業勤めをしながら、今の自分でいることに、これはこれでありかなと思っています。企業勤めの人が、楽しい仕事のやり方を見つけて、楽しみながら成果を出していくようになればいいと思っていますし、そのために私自身も頑張っていきたいと思っています。

(構成:佐々木紀彦、撮影:風間仁一郎)

瀧本 哲史 エンジェル投資家

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たきもと てつふみ

京都大学客員准教授、エンジェル投資家。東京大学法学部を卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼーに入社。3年で独立し、日本交通の経営再建などを手がける。その後、エンジェル投資家として活動しながら、京都大学では「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し人気講義に。「ディベート甲子園」を主催する全国教室ディベート連盟事務局。著著に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』がある。

【2019年8月16日18時00分編集部追記】2019年8月10日、瀧本哲史さんは逝去されました。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。

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