ナゼ今さら? 電報サービスに参入したKDDIの狙い

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ナゼ今さら? 電報サービスに参入したKDDIの狙い

約600億円規模とされる国内電報市場に今年7月、KDDIが参入した。2003年の信書便法施行によってNTT以外の民間事業者も電報と同じようなサービスが可能となった。だがネット主体のビジネスモデルで他にも何社か参入しているものの、長年の実績と圧倒的な知名度でNTTの独壇場が続いている。

「ナゼ今さら、電報なのか?」---。KDDIの国内電報事業「でんぽっぽ」を担当するKDDIエボルバの伊東博社長に、事業の狙いと手ごたえについて聞いた。

「『国内をやっちゃいけないんですかねえ』という社員の一言がキッカケでした。実は、当社はコールセンター、テレマーケティングを主要事業としていますが、日本語で海外に送れる海外電報サービスを細々と続けている経緯がある。事業ドメインがコミュニケーションであることを考えれば、国内の電報サービスを手掛けても不思議はない。市場が4割縮小したとはいえ慶弔ニーズは根強いものがあり、デジタル化が進んでいても電報はなくならない。これはおもしろいかもしれないと思った」と伊東社長は参入した経緯を語る。後発なので価格設定もNTTと比べて2割程度安くし、メッセージは最大350文字(NTTと違って字数による従量課金はない)で価格は1050円からとなっている。

「電報という商品には、おもしろい特性がある」という。「本来なら通信の秘密にもかかわらず、人前で読まれることを前提としている。祝意にしろ弔意にしろ、人に読まれていいものなんです。出す側にしてみれば、みんなに知ってもらいたい」(伊東社長)。「チチキトク」「サクラチル」のように、電報にも日本人ならではの言語感覚が流れていると伊東社長はみている。まずは慶弔分野から始めるが、若い人にとっても、電報というコミュニケーション手段がもっと身近に感じてもらえるよう、新しい分野も創出していきたいと意欲的だ。

当面の目標については「NTTは年間約1800万通を扱っているので、初年度はその1~2%とれればいいと思っている。さいわい多くの方々に関心を持っていただいているので、さまざまなところでアピールしていきたい。電報に関して企業ニーズもいろいろあることが分かってきたので、われわれならではのフットワークの良さを生かしてご要望に応えていく」(伊東社長)。

来年、NTTの電報受け付けに割り当てられている115番が、他の事業者にも開放されることになっている。伊東社長は「現在は専用ウエブサイトからの申し込みが主体ですが、いずれ電話でもとなれば、コールセンター事業を手掛けている当社にとってはお手の物です。ソフトバンクさんも参入するといっていますから、みんなで戦うしかありません」と、前向きにとらえる。

ニッチとはいえ、大手の通信事業者の参入によって市場が活性化することはまちがいなさそうだ。

高橋 志津子 東洋経済 記者

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たかはし しづこ / Shizuko Takahashi

上智大学法学部国際関係法学科卒。東洋経済新報社に入社後は、会社四季報、週刊東洋経済、ムック、東洋経済オンラインなどさまざまな媒体で編集・執筆を手掛ける

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