エーザイ、抗がん剤で「6100億円提携」の勝算 "難題"アルツハイマー薬開発も加速できるか

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エーザイにはメルクとの提携を急いだ別の事情がある。同社ががん治療薬と並びもう1つの柱と狙うアルツハイマー病(AD)治療薬の開発促進、もっと露骨に言えば、その開発資金の捻出だ。

昨年12月、エーザイは米バイオジェンと連名で、両社が共同開発するAD治療薬「BAN2401」(開発品コード)の臨床試験の進捗を発表した。米国での臨床試験の第2段階では、12カ月時点での解析結果が主要項目で成功基準に達しなかった。両社は18カ月時点の最終解析まで治験を継続する方針を表明したが、エーザイの株価は急落。現在先頭を走るエーザイ連合のAD治療薬の開発に対し、市場にくすぶる懐疑心が再び頭をもたげた。 

エーザイの内藤晴夫社長は、米メルク社との提携を機に、抗がん剤のみならず、アルツハイマー病治療薬の開発も加速させたい考えだ(写真:アフロ)

エーザイとバイオジェンは「アデュカヌマブ」(一般名)というAD治療薬も共同開発しており、こちらは臨床試験の最終段階にある。ただ、BAN2401と基本的に同じ仮説をベースに開発しているため、こちらの成否にも疑念が伝播している。市場の疑念の背景には、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、米イーライリリー・アンド・カンパニー、2017年にはメルクも臨床試験の最終段階で製品化を挫折するなど「失敗が積み重なった」AD治療薬の開発難渋の歴史がある。

約3200億円まで売り上げを伸ばし、抗認知症薬で世界を席巻したエーザイ。がんと並び世界中で増加し、多くのアルツハイマー患者が待ち望むAD治療薬は、エーザイとしても社運を懸けても成功させたい薬だ。

二兎を追うことができるか

抗がん剤とAD治療薬の開発が重なれば、エーザイの研究開発費がさらに膨張することは必至だ。すでにエーザイの売上高研究開発費比率は20%を超え、日本の製薬大手の中でも高い水準だ。

だが、今回のメルクとの提携では、研究開発費や販促費などレンビマにかかる費用を折半できる。また提携に伴う一時金など2020年度までに前倒しの収入も見込める。会見で、内藤社長は「AD治療薬の研究開発への投資資金も今回の提携で十分得られた」と断言し、提携で得られた資金をAD治療薬開発にも回す考えだ。

レンビマという抗がん剤分野の“虎の子”を差し出し、その将来利益の半分をくれてやっても、がんとアルツハイマーの二兎を追うためにはやむなし。これが今回の提携に隠されたエーザイの本音。エーザイの将来を託した提携がどうなるか、グローバル競争に臨む日本の製薬大手他社にとっても目が離せそうにない。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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