反社会的勢力と取引、みずほの新たな問題 懸案を放置した2年はワンバンク化の過程と重なる。

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ワントップの弊害

経営陣の刷新とワンバンク化を通じ、それまでの役員、幹部たちの多くが社外に転出し、みずほ銀行は大幅に若返った。と同時に、みずほコーポレート銀行頭取だった佐藤康博氏が11年に持ち株会社であるみずほフィナンシャルグループの社長に就任、さらに、13年7月にはワンバンク化に伴って、みずほ銀行頭取も兼任する体制となった。

経営陣刷新によって一挙に若返った役員陣と佐藤氏の間には、かつてなかったほどの年次格差が生じたうえに、母体3銀行の人事ラインが名実共に消えた今、「とりわけ上層部において、佐藤氏の求心力は急速に増している」(みずほ関係者)という。ワンバンク化と同時に、佐藤氏による「ワンマン化」のムードが広がっているのだ。

コンプライアンス委員会(委員長は佐藤氏)などに報告せずに放置し続けた2年間は、母体3銀行体制が崩壊し、代わって、佐藤氏のワントップ体制へ移行した過程と重なる。

みずほ銀行は9月27日の業務改善命令を受けて以降、10月初旬に至るまで、トップ自らが今回の出来事を説明する記者会見を開いていない。日本を代表する3メガバンクの一角としてグローバル展開しているにもかかわらず、である。

「米国当局などは反社会的勢力の問題に極めて敏感」(外資系銀行)で、過去、同様の事件を発生させた企業が外国企業から取引停止されたこともある。国内でも反社会的勢力との取引はもとより、当該取引を行った企業との取引すら忌避され始めている。現に「きちんと問題解決するまで、みずほとの取引を見合わせるかもしれない」という声も出ているというのに、みずほの動きは鈍い。

2度のシステムトラブルで露呈したのは、問題発生後の対応の遅さだった。その体質がいまだに改善されていないままで、下からトップに情報や意見が円滑に上がらないワンマン体制が構築されているとすれば、みずほ銀行は新たな体質問題を抱え始めたと見ざるをえない。これから進める3度目のシステム統合にも不安を残すことになりそうだ。

(撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2013年10月12日号

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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