北朝鮮が「米朝会談」にやけに乗り気な事情 主導権を握っているのは金正恩だ

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トランプ大統領がすぐさまこの申し出を受け入れたのは、側近たちを驚かせたというが、開催地が米国であるという部分にトランプ大統領は反応したのだろう。いずれにせよ、これは韓国特命使節団にとっても驚きであった。彼らは、ホワイトハウスの前庭で声明を発表する許可を得るために、夜中に文大統領を起こさなければならなかった。彼らがこれから長い協議や交渉に入る程度にしか考えていなかったとしても不思議ではない。

北朝鮮政府は何カ月も準備をしていた

しかし北朝鮮政府は、おそらくそれほど驚かなかっただろう。「北朝鮮は、この動きを何カ月もかけて準備してきた」と米国インテリジェンス・コミュニティで北朝鮮に詳しいあるアナリストは語る。

「北朝鮮政府は、米国政府の出来事を詳細に観察しており、トランプ大統領が必死になって大きな勝利を求めてくるだろうと読んでいた。どちらの側も自分たちの大勝利と考えながらこの会談に臨むことができる。金氏は『並進路線』が成功したと、トランプ大統領は最大の圧力が機能したと主張できる」

史上初となる米朝首脳会談をどこで開催するのか、もしくは実際に開催されるのかさえ、まだ見守る必要がある。しかし南北両政府の見地からすれば、すでに彼らの直近の目的は達成した。それは南北首脳会談への障害を取り除くことで、まずはその会談が間近に迫っている。

そして北朝鮮への経済封鎖を解く効果的な段階的緩和についての同意にも道を開く。これにより、制裁措置の抜け穴が拡大するのは避けられないだろう。おそらく観光事業や人道援助から始まり、北の開城工業地区の再開にまで拡大するかも知れない。

米国は今、平和列車をコントロールしているのは自分だと錯覚しているかも知れない。しかしそうではないのだ。米国にとって主導権を取り戻す明確な方法は、戦争への脅迫に立ち返ることだ。

実際、トランプ政権の周辺にはそうしたがっている者たちもいる。そうすれば、中断したところに戻ることになるが、それは米国政府と韓国との同盟関係に開く大きな亀裂を伴う。おそらく安倍首相はそれを見てまた満足することだろう。しかし長期的には、それはより危険な可能性が高い。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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