南北急接近の底流にある2人の「特異な出自」 金正恩は北朝鮮でなく、文在寅は韓国でない

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3月6日、韓国からの特使との会談に臨む金正恩・朝鮮労働党委員長(写真:KCNA/via Reuters)
著者の五味洋治氏が20年以上の朝鮮半島取材を通じて、北朝鮮の指導者・金正恩の実像を描いた『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』。この本のなかで、五味氏は「父・正日はソ連・ハバロフスク生まれ、母・高容姫は大阪生まれの在日コリアンだった」という金正恩のルーツを独自取材から鋭く掘り下げる。
韓国と北朝鮮が11年ぶりの南北首脳会談の開催に合意したというニュースは世界を駆け巡ったが、その会談のもう一人の主役となる韓国大統領・文在寅のルーツも自国にはない。彼の両親は北朝鮮からの避難民であり、その半生は、まさに貧しさと挫折との闘いだった。
2人は、いわば自分の国の外にルーツを持っているといえる。この特異な指導者たちは、朝鮮半島をどのように変えようとしているのだろうか。
=敬称略=

3月5、6日に平壌を訪問した韓国の大統領使節団が、4月下旬に軍事境界ラインの板門店で行われる、史上3回目の南北首脳会談開催に電撃的に合意した。

今年1月、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が、韓国との関係改善を呼びかけてから、朝鮮半島情勢は対決から対話ムードにがらりと変わり、2カ月ほどで「満足する合意」に至ったことになる。

文在寅の両親は北朝鮮からの避難民

核・ミサイル開発で米国を手玉に取る34歳の金正恩、韓国社会を市民中心につくり変え北朝鮮との関係改善を掲げる64歳の文在寅・韓国大統領。

文在寅・韓国大統領の半生は、貧しさと挫折との闘いだった(写真:REUTERS/Kim Hong-Ji)

倍ほどの年齢差がある2人のそもそものルーツは、自分の国にはない。だからこそ、自分の国にこだわり、首脳会談を実現させ、ひいては南北の統一という歴史に残る仕事に取り組もうとしているのかもしれない。

2人の生い立ちは対照的だが、目指すものは絶妙な一致点を見いだす。

「土のスプーン」をくわえて生まれてきたと表現される文在寅の半生は、まさに貧しさと挫折との闘いだった。

両親は北朝鮮からの避難民だ。1950年6月25日未明、北朝鮮の南侵で始まった朝鮮戦争は、北朝鮮軍が序盤を圧倒した。

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