池上彰が斬る米国の内幕「炎と怒り」の本質 トランプ陣営は元々選挙に勝つ気がなかった

拡大
縮小

何より驚かされたのは、この本でウォルフ氏がトランプ大統領について、精神的に大統領にはふさわしくないと批判したところ、トランプ大統領は、「人生を通して私が持つ2つの最上の資質は、精神的安定性と天才であることだ」とツイートしたことだ。自分のことを天才と言ってのける神経。本当にこの人は大丈夫なのだろうか。

「ドナルドほど医療保険に無知な人間はいない」

2017年1月にトランプ大統領が就任して以来、世界は振り回されてきた。TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱に続いて、温暖化防止対策のパリ協定からも離脱を宣言。トランプ大統領の言う「アメリカ・ファースト」とは、「アメリカの国益をまず考える」という意味だと思われてきたが、実際は「アメリカさえ良ければ、あとはどうでもいい」という意味であることがわかってきた。

トランプ氏は、大統領に当選が決まってまもなく、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統からお祝いの電話を受けたことを公表した。これには外交関係者がビックリ。アメリカが「一つの中国」の路線を放棄し、台湾を国家として承認する「二つの中国」政策に舵を切ったのかと受け止めたからだ。

このときトランプ氏は、「一つの中国という政策に縛られる必要はない」という趣旨の発言もしている。外交の大転換だと驚いたものだ。

ところが、大統領に就任後は、台湾に関して発言しなくなり、いつしか「一つの中国」という伝統的な対中政策に戻っていた。いったい何があったのか。大統領就任以来、これが大きな疑問の一つだった。この本を読んで得心した。トランプ大統領は、大統領になるまで外交に関して何も知らなかったのだ。

そういえば2016年の共和党の大統領候補選びの最中、トランプ氏は「TPPは中国の陰謀だ」と主張していた。これにライバル候補が「中国はTPPに参加していないが」と反論した途端、何も言わなくなった。

驚くほど政策を何一つ知らない人物。この本は、そんなトランプ大統領の姿を描き出す。たとえばオバマ大統領の時代に導入された医療保険制度。通称オバマケアに関し、トランプ氏は、選挙中に「最悪だ」と批判していたが、どこがどのように問題なのか触れることはなかった。本書では、FOXニュースの最高経営責任者だったロジャー・エイルズの言葉を紹介している。「国じゅう、いや地球じゅうを見渡しても、ドナルドほど医療保険に無知な人間はいない」と。

次ページすべてをひっくり返したいだけ?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT