11年の歯科矯正が台なしになった女性の悲劇 定期検診に加え「親知らずの積極抜歯」が大切

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必要だとわかっていても、定期検診になかなか時間が割けない人もいるかと思います。そうした人はトラブルが起きる前に親知らずを抜いておくという手もあります。欧米では「ウィズダムトゥースアウト」といい、一般的に行われています。歯列矯正は10代で始める人がほとんどですが、その時点ではタマゴの状態(歯胚)で静かに眠っている親知らず(ウィズダムトゥース)を、前もって抜歯するという処置です。

夏休みに小中学生の子どもを親が口腔外科に連れていき、抜歯してもらう光景はアメリカではよくあります。なぜ日本より積極的に親知らずが抜かれているかというと、アメリカは訴訟社会ですから、「親知らずが出てくることでせっかく並んだきれいな歯列がガタガタになったじゃないか! これを予想できなかったのか」なんて訴えられてしまうからです。こうした事情から、アメリカの矯正担当医は訴訟リスクを回避するために、親知らずの抜歯を積極的に進めるのです。

対症療法が中心の日本の歯科診療とは大きな違いを感じます。日本では将来のトラブルに備え「骨を削って親知らずを抜きましょう」と伝えても理解してもらうのは大変なのです。ただ、せっかく苦労して手に入れた歯並びがまた歪んでしまうのは悲劇ですよね。そのため、私の院では、積極的に患者さんにウィズダムトゥースアウトをお勧めしています。

そもそも、なぜ歯並びが悪くなるのか

歯列矯正が必要な状態を例えるなら、小さなソファーに無理やりたくさんの人が座ろうとしている状態です。斜めに座ったり誰かのひざの上にお尻を置いたりしなければならないのです。歯並びが悪い場合、その人がまだ育ち盛りで骨が軟らかければ「ソファーの大きさを広げる」ように矯正でスペースを作ります。しかし、成長が止まってしまった大人の場合はそうはいきません。大人の場合、永久歯の本数を減らして「ソファーに座る人を減らす」のです。

ただ、予防歯科の観点から言うと、やはり矯正だけでは不十分です。あごのサイズからみて必要のない親知らずがおかしな埋まり方をしていた場合、しかるべきタイミングで親知らずも抜いておくことをお勧めします。

最近では恐怖心や不安・緊張感を最小限に抑制し快適かつ安全に治療を施行するために、胃の内視鏡検査にも用いられる「静脈内鎮静法」を行うクリニックもあります。寝ている間に4本の親知らずを一気に抜歯することも可能で、腫れが引くまでにかかる時間、いわゆるダウンタイムを最小限にすることもできます。

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