両備「赤字バス廃止届け出」奇策は成功したか 狙いは「公共交通維持への問題提起」

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問題提起の発端となった、両備バス発祥の路線であり赤字路線を支える幹線である西大寺線の路線バス(筆者撮影)

この議論を進めるうえでは、前提として今回の問題の発端となった、両備グループの路線と競合する八晃運輸「めぐりん」の郊外線が認可された経緯を知る必要がある。そのために、両備グループは中国運輸局に対し、認可の経緯について開示請求をしたといい、回答期限は3月19日となっている。

昨夏までの前局長時代には認可しない方針だったのが、局長交代と国土交通省の本省人事異動により、一転して認可される方向になった理由がいかに説明されるかが焦点となろう。

多くの反響があった廃止届け出だが、賛否両論があるものの、支持する意見が圧倒的に多かったという。同社ホームページで公開されている代表メッセージに対しては、6800を超える「いいね!」が記録されていることからも、そのことが裏付けられよう。

今回の廃止届け出は路線バスの廃止が目的ではなく、問題提起のための手段だ。そのため、話し合いの場が持たれることになった今となっては申請の取り下げも考えられるが、問題が解決しないまま取り下げては事態の改善を促せなくなることから、現時点で廃止申請は取り下げない方針だ。

ただし、利用者に迷惑をかけないよう、路線によって廃止の期日が2018年9月1日と2019年4月1日の2つに分かれているのを、すべて2019年4月1日に統一するという。これは、2019年3月31日までの全路線運行を確定させることで、今年4月からの新学期・新年度に安心して1年定期券を購入できるようにすることが狙いだ。

そのうえで、話し合いの場で一定のメドがついたときには、廃止届けを取り下げるつもりであり、数カ月でメドをつけたいとの見解も表明された。

岡山だけの問題ではない

両備バスと岡電バスによる廃止届け出のその後の動きについては以上だが、一定のメドがついて無事に取り下げとなったとしても、そこがゴールではない。

両備グループの小嶋CEOは、今回の件は岡山ローカルの問題ではなく、放置すると全国の公共交通網がズタズタになる可能性があるという点で、強い危機感をもっている。2002年改正の道路運送法は、第六条(許可基準)で申請事業者に対する基準を定めているが、新たな事業者の参入によって競合が生じる他社との関係については一切触れていない。これが、今回問題提起をすることになった最大の要因である。

2002年改正以前の旧法では、申請に対しては地域別に認可をして、競合が生まれるところについては協議の場を設けることで対応していた。その旧法の成り立ちと、現法の成り立ちを共に知る現役経営者が少なくなっていることから、小嶋CEOは現役のうちにこの問題に一定のメドを立てる必要を感じているという。

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