高品質・低価格という「犯罪」が日本を滅ぼす アトキンソン氏「労働者の地獄を放置するな」

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仮に日本の生産性が低い理由が、本当に「高品質・低価格という美徳」だとすると、全産業の生産性が低くなるはずです。しかし、日本の製造業の生産性は海外と比べてもさほど低くはありません。一方、サービス業の生産性は大きく水をあけられています。

もし本当に「高品質・低価格という美徳」が日本の生産性を低くしているという主張が正しいとすると、「サービスを消費する人と製造業の商品を消費する人が違う」という条件が必要になりますが、そんな事実はありません。

また、彼らがいう「高品質・低価格は日本の美徳だ」というのも、眉唾物です。仮に高品質・低価格が伝統的に日本に根付いた価値観だとしたら、時代を遡ってみても同じ現象が確認できるはずです。

しかし、今は先進国の中で第28位の日本の生産性(人口1人あたりGDP)は、1990年には第10位でした。「高品質・低価格という考え方は日本文化だ、日本の伝統だ」と主張する人たちは、1990年以前の状態をどう説明するのでしょうか

私には、高品質・低価格が日本の文化や、伝統的な日本的経営に起因しているとは到底思えません。

答えに窮した彼らからは、「デフレの結果、日本は高品質・低価格になった」というさらなる反論が返ってくることも予想されます。

しかし、この理屈も矛盾しています。先ほども説明したように、日本の製造業は他国と比較しても決して生産性は低くありません。この論のようにデフレが原因なら、製造業も同じように生産性が低くなってしかるべきです。理屈が通りません。

「高品質・低価格」は人口減少時代に合わない戦略

高品質・低価格の戦略は、1990年までは正しい戦略だったと思います。日本の人口が大きく増えている時代は、消費者が増え、世帯数も増加し、ものが売れやすい時代でした。テレビ、洗濯機、エアコンなどのさまざまなイノベーションもありました。

こういった時代では、規模の経済が働く「良いものを安く売る」戦略は、正解だったでしょう。低価格は需要の喚起につながり、利益も増えました。

しかし、特に若い人が減り、同じものをより良く作って安く売っても、需要を喚起することができなくなってきました。規模の経済は働かず、結果としてデフレを起こすだけでした。

この間、経営者が何をしたのか。人口の増加が止まり、減少に転じたため、供給が過剰になりました。本来であれば、ここで付加価値を高めて、生産性を上げる方向に舵を切るべきでした。

しかし、サービス業などの過剰分を輸出に回せない業界では、需要が減っていることの重大さを理解することなく、需要を喚起しようと価格を下げて、何とかなることを期待したのです。

これが、日本の多くの経営者がとった愚かな戦略で、日本をデフレに追い込み、せっかくの良いものを低い価格でしか売れない国にしてしまった最大の原因です。どう考えても、「高品質・低価格」という戦略がデフレの原因なのです。

次ページ高品質・低価格は「労働者の地獄」を生み出す
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