日本株はトランプ保護主義で再下落するのか 袋小路に陥った米トランプ政権をどう見る?

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1)米国が、グローバル化の恩恵を失う恐れがある。たとえば、米国企業にとっては、海外からの安価な部品・原材料の輸入や、自社の低賃金国における生産(逆輸入)などによる、コスト抑制メリットを失う。また、消費者も高い買い物をしなければならなくなる。

2)特に、NAFTAを修正すれば、この協定の存在を前提とした経済活動の見直しが重荷となる。たとえば、メキシコとの間に追加関税を設けることになれば、米自動車メーカーにとって、ピックアップトラックの生産チェーン(現在、米国で販売されているピックアップトラックのほぼ100%がメキシコで生産されているとみられる)の再構築が必要となる。

また、メキシコは、NAFTAのもと、米国から穀物を大いに輸入しているが(米国からの農産物輸出のうち、メキシコ向けは約13%)、協定の見直しでメキシコが対抗措置として米国産穀物に輸入関税を追加導入すれば、米国の農家にとって打撃となりうる。

3)貿易収支改善のため、米国が米ドル安を望んでいる、との思惑が広がりやすい。米ドル安は、さらに米国の輸入物価を押し上げ、インフレ懸念を強めかねない。

4)中国が、米国からの貿易圧力に報復するため、米国債を売却するとの過度の懸念が引き起こされやすい。

米国の企業収益は増加しており、過度の不安は不要

だが、このように保護主義の弊害が懸念されるからこそ、産業界や、自由貿易を標榜する議会共和党からも、トランプ政権の保護主義に対する批判が強まっている。今回の追加関税については、ゲイリー・コーンNEC(国家経済委員会)委員長も、大統領に翻意を促していたとの観測が浮上している。少し前、1月のダボス会議(世界経済フォーラム)で、トランプ大統領がいきなりTPP交渉への復帰を示唆し、「強いドルが好きだ」と語って方針変更をちらつかせたのも、大統領に対する圧力があったからだと推察される。

今回の関税導入も、欧州や中国からの報復措置や、WTO(世界貿易機関)への提訴といった、諸国からの反発が想定され、今は虚勢を張っているトランプ大統領も、方針を翻さざるを得なくなる可能性がある。
むしろ、これまでの保護主義で際立ったことは、トランプ政権がますます袋小路に入っているということだ。

既述のように、保護主義路線を突っ走れば、自国内の産業界、議会共和党、諸外国を敵に回す。「では」と、自由貿易路線へ変貌すれば、大統領選挙時の支持層(衰退産業の工場労働者)が離反する。そうした工場労働者が職を失う危機にあるのは、そうした産業が競争力を失っていることと、労働者の自助努力の欠如なのだが、トランプ政権はそうではなく、中国やメキシコのせいだ、とのフェイクをまき散らして当選した。自分がまき散らしたフェイクが、自分の首を絞めている状態だ。

とは言っても、重要なポイントは、トランプ氏が大統領であろうとなかろうと、米国の経済は拡大し、米国の企業収益は増益基調にある、というところだ。今後の市場動向について、過度の不安は不要だろう。

そうしたなかで、今週の日本株はどうなるか。世界市場が、4日(日)のイタリア総選挙の結果を消化する必要があり、9日(金)発表の米国2月雇用統計も前にして、動きにくいところではある。内外の投資家心理も不安定で、最近の売買も一方方向に振れやすい。このため、短期的な底割れリスクは残りながらも、冒頭述べたように、底固めから株価上昇基調へ向かうと予想する。今週の日経平均株価の予想レンジは、かなり広いが、2万0800~2万2200円とする。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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