JR東日本が「中古車両」を海外に譲渡する狙い 武蔵野線「205系」336両をインドネシアへ

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だが、これだけのマーケットがあるにもかかわらず、当時の日本の鉄道事業者や部品メーカーの対応は実に冷ややかなものであった。その理由を集約すると、1点目は、万が一の事態が発生した場合どうするのかという日本的な事なかれ主義によるものである。

ジャカルタで元気に走る205系  日本での現役時代より長い12両編成(筆者撮影)

だから、いずれの譲渡車両に対しても、売却後に日本側は一切の保証はしない(東急電鉄のみ、一時期スペアパーツの供給を行っていた)というのが当時の基本スタンスであった。同じ時期、JR東日本からも103系及び203系が譲渡されているが、公式リリースもなく、今回のようなジャカルタへの旅立ちをアピールする装飾なども、当然なされなかった。

そして、2点目はインドネシア側の対応の悪さによるものだ。故障する前に保全をする「予防保全」を知らない当時の鉄道会社は、故障パーツを故障した数しか発注しようとしない。そこへインドネシア政府の厳しい輸入品規制もあって、日系メーカーがなかなか対応しなかった。さらに公営企業であるがゆえに、いかなる物品の調達においても、競争入札で納入業者を決めるため、煩雑な手続きと、それに関わる時間の浪費が、いっそう日系メーカー離れに拍車をかけた。

JR東日本の真の狙いは?

205系は有償譲渡されているものの、その価格は1両あたり1000万円(輸送費など諸経費含む)を下回っているとみられており、国内事業者への譲渡と比較しても破格での売却である。国内搬出箇所で車籍を抹消するまでは、営業車両と同じ整備基準を求められ、配給や疎開に関わる回送費、さらに交番検査等を考えると、JR東日本にほとんど儲けはないのではないかと思われる。

これに加えて譲渡後に無償の人的支援も行っている。なぜJR東日本が、ここまでKCIに手厚いプログラムを組んでいるのか。今回も336両の車両譲渡を決定し、引き続き支援を続ける理由はどこにあるのか。

日本製の純正パーツが整然と並ぶマンガライ工場 数年前には考えられなかった光景(筆者撮影)

そこには、JR東日本の完全子会社であるJR東日本テクノロジー(JRTM)の存在がある。JRTMは国内で主に車両メンテンナンス、車両改造等を行っているが、海外向けの技術支援や、部品供給も扱っている。

ここジャカルタでも同様の業務を行っており、205系スペアパーツは基本的にJRTM経由で納入されている。既に500両弱の205系が配置され、しかもJR東日本による徹底的なメンテナンス教育により、パーツは周期通りに交換されていく。

実は、ここに商売が成り立っているのである。車両を安く販売し、その後のメンテナンスサービスで稼ぐという近年の世界的なビジネスの流れをJR東日本も実践しているのだ。

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