シリア情勢を悪化させた米国の「IS掃討作戦」 ISが去っても紛争は終わっていない

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シリアに侵攻したトルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国だが、米欧の同盟国は強く非難するのをためらい、トルコのエルドアン大統領に自制を促すにとどめている。

トルコは傍若無人に振る舞い続け、ロシアから最新鋭の地対空ミサイル「S400」を購入し、またもやNATO加盟国をあぜんとさせた。今後の和平プロセスの可能性をくじくような動きだ。というのも、ロシアの戦略的関心は中東をも覆っており、西側諸国がロシアに対抗するにはトルコの協力が欠かせないからだ。

オバマとトランプの功罪

未来の歴史家はISを徹底的に追い詰めたことについて、オバマ、トランプの両米大統領を称賛するだろう。だが、この戦争が持つ、より大きな意味合いを理解しなかった点で両人は非難されよう。

2011年にシリアのアサド大統領に退陣を求めたとき、オバマ政権に先の展開が見えていなかったのははっきりしている。同年7月、シリア駐在のフォード米大使はシリア中部の町ハマを訪れた。1982年にアサド大統領の父が住民を虐殺した場所だ。

米国務省によれば、訪問の目的は「平和的に意見表明するという、シリア国民の権利に対し強い支持を表明する」ことにあった。だが、民衆が立ち上がれば、父親がかつてそうしたようにアサド大統領は暴力で応じてくる。そのことをオバマ政権は本当に予見できなかったのか。

7年前に反アサドのスタンスを取ったとき、米国はトルコやロシア、イラン、イスラエルなど他陣営の思惑は無視して自らの国益を主張していた。だが、事ここに至って米国がどっちつかずの状況に陥る中、米ロ代理戦争の危険性が極めてリアルに立ち現れている。

トランプ政権にリーダーシップを発揮するつもりがあるのなら、まずは関係する各勢力の利益を理解し、和解の可能性を探るところから着手すべきだ。しかし、各勢力が何を望んでいるかを聞く前にトランプ政権は自問せねばならない。シリアが急速に混迷を深めていく中で米国が拠って立つ足場とは何なのか、と。

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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