「北朝鮮への経済制裁」現地で見えた真の影響 現地エコノミストが明かす変化と経済の展望

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――2018年の北朝鮮経済の展望は。

:全般的に経済の活性化に向けた突破口を開くというのが基本方針だ。国家経済発展5カ年戦略を完遂させるための突破口を開くという意味になる。経済活動の正常化と、正常化からさらに高みを目指す経済活動を繰り広げていく方針だ。それには、電力工業における自立性と主体性を強化することに集中し、人民生活を改善・向上させていく。自立はエンジンであり、経済発展の土台だと考えている。

――国家経済発展5カ年戦略に関し、数値目標が明らかになっていないので、どのような戦略なのか外部では理解できないままだ。

:これも数値目標は明らかにすることができない。だが、以下のように理解しておけばいいだろう。すなわち、エネルギー問題を基本的に解決し、食糧の確保と食べる問題(生活問題)を完全に解決すること。自国民の消費問題を解決することを目標としている、ということだ。

最近の経済動向で、興味深い現象が進行中であることがわかった。この5年ほど、朝鮮社会科学院経済研究所が国内市場に関するデータを収集している。これによると、市場の数、ここで働く労働者数、取り扱う品物の数や金額などが減っていることが判明した。

これが意味することは、国家による経済管理が徐々に効き始めているということだ。国営商店などが増え、人民の生活が徐々に市場から離れているのは確かだ。

――経済制裁によりエネルギー分野、特に重油やガソリンの不足が外部でよく取りざたされているが。

:確かにガソリン価格は上がった。だが、バスやタクシーなど大衆交通機関の運賃は値上がりしていない。これは、ガソリン価格の上昇が実生活においてそれほど悪影響をもたらしていないということだ。

電力事情は改善しているのか?

――筆者はこの5年間、毎年訪朝しているが、電力事情は徐々に改善していることを実感している。だが、経済活動において電力事情はどれほど改善しているのか。エネルギー問題は解決の方向に進んでいるのか。

夕刻の平壌・未来科学者通り(記者撮影)

:北朝鮮国内の電力生産能力は700万キロワットある。2018年は、発電設備の更新・修繕を進めていく。前述したように、水力発電所も増強し、建設中の発電所は完成を前倒しさせる。同時に、自然エネルギーの開発も進めていく。

特に今年は、火力発電所の設備更新など積極的に補強していく方針だ。石炭生産が安定しており、制裁で輸出が厳しくなっているぶん、国内に回し発電量を増強させる。また、山間地帯などでは中小発電所の建設を増やし、電力を効果的・戦略的に供給できるようにしていく。

『週刊東洋経済』3月3日号(2月26日発売)の特集は「日本人が知らない地政学」です。
福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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