不動産「仲介手数料」自由化はなぜ必要なのか 50年前にできた基準に縛られる合理性はない

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そして、引っ越しが終わるとすぐに建物の不具合が発生した。床下の配管から水漏れが生じているようだった。すぐに担当者に連絡をすると「契約上、売主に責任はない」とこれも一蹴される。築20年を経過しているため、建物について売主の責任を免除する「瑕疵担保免責」を条件として契約していた。

筆者が創業したさくら事務所に、藤田さんから相談が来たのはこの段階だ。建物をひととおり調べ、水漏れの箇所や修繕方法・費用などについてアドバイスしたほか、他に発見された建物の劣化事象や不具合についても説明した。しかし、こうしたアドバイスは契約前に受けてこそ効果を発揮するものだ。

ホームインスペクションは、確かに業者の言うとおり、特に引き合いの多い今回のような場合、それを拒否する売主も中にはいる。しかし藤田さんのケースでは、仲介業者は売主に交渉すらしていない。宅地建物取引業法が改正され、2018年4月には「インスペクションの説明義務化」がスタートする中、仲介業者のこうした対応は非常に不親切で、多額の手数料を支払っている藤田さんの側に立ったサービスを提供しているとはとてもいえない。こうした業者でも、上限の手数料を取ることが当たり前になれば、モラルハザードが起きるだろう。

物件選びの前に担当者選びをする流れを作るべき

しかし、こうした現実は不動産業界ではそう珍しいことではない。嫌な思いをしないためには、誠実で有能な担当者を探すしかないのだが、そもそも一般的に不動産探しの構造には大きな問題がある。ほとんどの人がまず物件選びから入り、問い合わせをすると事後的に、自動的に担当者から連絡がくる。そのため、顧客は担当者を選べないし、選ぼうという意識も持ちにくいのだ。

しかし筆者は、物件選びの前に担当者選びをする流れを定着させるべきだと考えている。複数の仲介業者に条件を伝え、その後のやり取りの中で対応が誠実か、相性が合うか、求めるスキルがあるかなどを見極める。信頼できる友人・知人などに紹介してもらってもいいだろう。

すでに担当者が決まっている場合でも、変更を申し出ることも可能だ。該当店舗の責任者などに相談するとよい。多くの人にとって、不動産購入は一生に一度と言っていい大きな買い物だ。遠慮、我慢する必要はない。会社としても、担当者と相性が合わないからといって無言で顧客に去られてしまうより、率直に意思を表明してもらったほうが実はありがたい。担当者は後になって上司に怒られるかもしれないが、それも今後の糧として成長してくれればいいだろう。

不動産取引のプロセスは非常に重要だ。ここに不満があると、後に何か問題が発生した際、入居後に後悔することになる。そもそも3%+6万円といった仲介手数料の規定は、それが「上限」と規定されているだけで、必ずしも満額である必要はなく、当事者同士が了承すれば1%でも2%でも構わない。

対応に不満があるなら値引き交渉できるし、そもそも良心的な業者であれば、その業務内容の多寡によって自ら手数料交渉を申し出るところもある。逆に、担当者の力量によって、よりよい条件で購入できたなど、3%+6万円といった上限の手数料を支払うに十分見合うケースもあるし、場合によってはそれを大きく上回ってもよいケースはたくさんある。

不動産仲介は、担当者の誰しもが同じ価値を出せる定型的な仕事ではなく、知識や人間性、交渉力などの総合的なスキルが結果に大きく影響する。受け取る報酬は、その価値に合わせて変動する形が、健全なあり方と言えるのではないだろうか。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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