マンションはどこまで下がる--値下げも不発、連鎖破綻の幕開け

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 売れないマンションの在庫は拡大する一方だ(右図)。今年6月には在庫が2年前の2倍近い水準まで膨らんでしまった。実需を超える大量供給と高価格で、いずれマンションが売れなくなることを、なぜデベロッパー各社は予見できなかったのだろうか。

「不動産業界全体が強気だった。多少、立地が悪くても売れると思っていた」と、トータルブレインの杉原禎之常務は当時を振り返る。不動産ファンドとの競合で都心の好立地を取得できなくなった新興・中堅デベロッパーは立地を求めて郊外へ、郊外へと足を延ばした。その結果、国道16号線の外側という、本来なら戸建て分譲住宅向けの立地である「超郊外」にまでマンションが次々と建設されるようになった。

値下げできるかは販社の体力次第

「スープの冷めない距離」--。都心なら二世帯住宅に使われるこのフレーズが、超郊外では「親元と徒歩で行き来できる距離」という意味に変わって、マンション販売に使われた。さらに、「スープの“冷める”距離」というフレーズまで飛び出した。実家から電車で数駅の場所にマンションを買いましょうという意味である。「冷めない」「冷める」どちらも実家に住む1次取得者向けに発せられたものだ。「80年代のバブル期には、超郊外は割安感から広範な集客ができたが、大量供給が続く状況では、地元の居住者しかターゲットにできない」(杉原氏)ためである。

あまりの惨状から、超郊外では水面下での値引きに加えて、「価格改定」という正式な値下げ宣言まで飛び出した。そこまでやっても売れない。「資金的に買える人でも、これだけ売れないというニュースが世の中に出てくると、ちょっと様子を見ようということになる」(トータルブレインの久光龍彦社長)。

デベロッパーの側でも、いつまでも売れないマンションを在庫として抱えているわけにもいかず、「今後は在庫調整してくるところが増えてくる」と、みずほ証券の石澤卓志・チーフ不動産アナリストは見る。

デベロッパーの中にも、値下げをできる会社とできない会社がある。「マンションの利益率は7~8%程度」と石澤氏は推測する。3000万円のマンションを1戸売れば、デベロッパーの利益はざっと200万~250万円。これが値引きの原資になる。もっとも、利益率は立地によってバラツキが出る。「東京に比較的近い市川や浦安あたりでは利益率は多少確保できているが、それより遠い郊外では価格を下げれば赤字」(石澤氏)。

財務的に余裕のある会社は、赤字覚悟でこの水準を超える値引きをして在庫処分ができるが、そうでない会社は在庫がいつまでもハケない。倒産したアーバンコーポレイションやゼファーをはじめ、マンションデベロッパーの中には不動産流動化事業と呼ばれる私募ファンド向けの開発・転売ビジネスも手掛けているところが少なくない。「分譲マンションを1戸、1戸売るよりも、ファンドに1棟丸ごと売ったほうがはるかに効率がよい」(野村証券の福島大輔シニアアナリスト)ためである。

だが、金融機関はこうした事業への貸し出し姿勢を厳しくしたために、デベロッパーは資金繰りがタイトになる一方だ。マンションの在庫処分ができなければ、行き着く先は倒産しかない。そして超郊外を発端とする売り上げ不振が、今や市場全体へと波及しつつあるのだ。

今後は中古マンションへの回帰が始まるか

では、今後のマンション業界はどうなるのか。市況の悪化を受けて08年度の首都圏での新規供給は4万7000戸と、ピーク時の04年から半減する見通しだ。09年以降についても「土地価格の低下局面が続くため、マンション価格が今後大きく低下するのではないかと期待する声も大きいが、マンション価格を決める2大構成要素のもう一方となる建築費が高騰しており、マンション価格が大幅に低下することは非常に難しい」と、杉原氏は指摘する。

もちろんデベロッパー各社は「フローリングのグレードを落とすとか、自動食器洗い機をオプションにするとかして、販売価格を引き下げようとする」(オイコスの大森氏)に違いない。だが、そもそも実需が伴わないという見方もある。「もともと首都圏の分譲マンション市場規模は年間5万戸程度と考えられていたのに、過去数年は年8万戸という大量供給が続いた。これが将来の需要を食い尽くした。今後供給が減っても需要がついていかない懸念がある」(J−REITアナリストの山崎成人氏)。

縮小する新築マンションを尻目に中古マンションの成約個数はここ数年2・8万戸と堅調だ。「日本の分譲マンションは530万戸ある。中古の潜在市場規模は非常に大きい」(中古マンション投資を行うスター・マイカの水永政志社長)。行き過ぎた新築マンションバブルははじけた。再び中古や戸建て住宅へ回帰する動きが今後出てくるかもしれない。


(週刊東洋経済編集部 撮影:風間仁一郎)
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