120人の不良を更生させた「中澤さん」の流儀 「下町のすごい保護司」と「更生カレー」

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また、相手を褒めることも心掛けている。これまで怒られてばかりきた不良少年たち。いいところを探して褒めることで、彼らは自信がつき、面談もスムーズに進むという。

「うちに呼んで面談するときも、機嫌良く迎えて、気分良く帰すの。説教ばかり垂れて帰したら、『保護司のところに行ったら頭来た』となるでしょ。けれど褒めて気分良く帰せば、また次も行こうって思うだろうしね。褒めるところがなければ、歯並びいいねとか」

そして最後は、聞き手側に回りつつ、言うべきことはしっかり言う。面談のとき、自分が話すのは2~3割。相手に不満や思いがあれば思う存分吐き出してもらい、それに耳を傾ける。ただし、再び悪事を働かないよう、釘を刺すことは忘れない。相手の感情の動きを見ながら、絶妙なタイミングで「最近は人様のものに手を出して(盗んで)ないよな」と差し込むのだ。一歩間違えれば機嫌を損ねたり、席を立たれたりしかねないが、中澤さんにはその瞬間がわかるという。

「話していると、相手の心のドアがさっと開くのがわかるわけです。そのときに、風をおくりこんじゃうっていうね。そこまでは時間がかかるけれど、ドアさえ開けばこっちのもの。あとは強く出ようが、乱暴な言葉を使おうが、向こうは受け入れてくれるんです」

中澤さん特製のカレーライス

これが名物「中澤さんのカレー」(写真:今井康一)

そういった心掛けや工夫のほかに、少年たちの心と胃袋をつかんだものがある。中澤さん特製のカレーライスだ。対象者を自宅に招くたびに、「おなか減ってるでしょ?」と手料理をふるまいながら面談を行ってきた中澤さん。スパゲッティや豚汁などさまざまなメニューを出してきたが、圧倒的に人気なのがカレーだった。“更生カレー”と呼ぶ人もいるという。一体、どんなカレーなのだろう。筆者もお願いして食べさせてもらった。

ルーはやや甘めで、優しくて懐かしい家庭の味。肉やジャガイモが大きく切られているのは、食べ盛りの少年たちに食べ応えを感じてもらうためだという。一人暮らしで、家庭料理をあまり食べる機会がない筆者は、たちまち平らげてしまった。「お代わりいるかい? コーヒーは? ケーキもあるよ」と、優しく声をかけられ、気づけば心も胃袋もつかまれていた。

中澤さんは地域活動として年に2回ほど、近所の人々の協力のもと、「カレー会」を開催している。多い時は400食も作り、集まった人々にふるまうのだとか。「カレー会にはね、良い子も悪い子も普通の子も関係なく集まるの。その親たちやボランティアの大学生も来て、全部で百何十人はいるかな。垣根なく、みんな来られるのがいいよね」。

平成29年現在、保護司は全国に4万8000人弱いる(全国保護司連盟ホームページより)。人によってやり方は十人十色だが、中澤さんほど労力を注いで、対象者や家族に接している人は多くないだろう。「私は私。皆さんは皆さんのやり方があっていい」と涼しい顔で言うが、その言葉の節々から使命感がにじみ出ている。

「法務省からは、もし危険な目に遭ったら、警察を呼んでくださいと言われているんです。けれどこっちは、警察が入り口で保護司が出口だと思っているわけ。また警察に戻してどうするんだい、ここで私が踏ん張らないと、という感じで。真っ白にならなくてもいい。けれど、預かったときより少しでも白に近づいて、社会に出てもらいたいですね」

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