「スマートホーム」には危険が潜んでいる 家をIoT機器だらけにすると何が起きるか

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現在のいわゆる家電製品は故障しなければ安全、という暗黙の了解がある。だが、IoT化された家電製品が増えると、故障はしておらず、正しい動作をしていても、機器間の連携により不都合が生じる場合があるのだ。

たとえば、電動シャッターやパワーウインドウと、防災設備、エアコンの例を考えてみよう。屋内で火事が発生したとき、排煙設備は消火活動を支援するため煙を外に排出しようとパワーウインドウを開ける命令を出す。

一方、エアコンは窓が開いたことを感知すると、暖房効率を高めるためパワーウインドウを閉めようとする。このとき仮にエアコンの命令系統が防災設備の上位に位置していたら、窓は閉じられ、火の周りはいっそう早くなる。

また、電動シャッターやパワーウインドウが閉じたまま、人間の力では開けることが出来ない仕様になっていたら、逃げ遅れた人は閉じ込められることになる。

安全性担保の基準はない

驚くべきことに、「家に関する限りこうした安全性を担保する基準がなかった」と前出の飯島主幹研究員は言うのだ。もちろん、洗濯機や冷蔵庫、エアコンなど単体の機器にはそれぞれの機能安全規格がある。だが、設備機器同士が連携したとき、どのような不都合が生じるかを検証した例はなく、誰がどの段階で責任を負うのかさえ決まっていない。

ほかにもネットに接続するのだから、ハッキング(クラッキング)の脅威はつねにある。また、パワーウインドウの例のように、相反する指令が出されたとき、IoT製品が暴走したらどのように対処すればよいのかという手順書もない。

「安全を守る技術が必要だ」。飯島主幹研究員は力説する。あらゆる設備機器がネットでつながるIoT住宅に安全に住めるよう、基準を定める必要があるというわけだ。

すでにミサワホームは産業技術総合研究所と、住宅のIoTを国際電気標準会議(IEC)の標準規格とするべく提案を行い、承認を得た。国際標準の開発も始まっている。

しかし、標準規格ができたとしてもメーカー側に、これだけは設計上のケアをするようガイドラインが示されるに過ぎない。連携するIoT製品の安全性を担保し、実際にIoTを実装した住宅に安心して住めるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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