池上彰氏「僕はこうやって本を読んできた」 「君たちはどう生きるか」に学ぶこと

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あるいは「どういう種類の本を読めばよいですか?」と問われることもあります。これはもう、「人それぞれ」としか言いようがありません。はじめは、活字にこだわらず、漫画であってもよいと思います。

読書への扉はどこにでもあります。そのきっかけをつくるのは、親なり学校の先生なり、大人ができることではないかと思います。今の子どもたちにいきなり「本を読むのは大切です」「本を読みましょう」と言っても、そう簡単には手に取りません。

でも、たとえば朝の10分間読書運動のときに、全国学校図書館協議会の選定図書を読んでみてはどうかと勧めてみる。そうすれば、男の子であれば冒険小説が面白いと思うかもしれないし、女の子であればヒロインが魅力的な恋愛小説にひかれるかもしれない。あるいは科学図鑑に夢中になる子が出てくる可能性もあります。そのときに読んだ本が、「人生を決めた1冊の本」になる場合もあるのです。

実際に私がそうでした。小学6年生のときに『続 地方記者』(朝日新聞社)という、地方で働く新聞記者のドキュメントの本を読み、それで「よし、将来は地方で働く新聞記者になるぞ」と心に決めたのです。

大学生になって就職活動をする際、テレビでもニュースを扱う分量が増えたことで、新聞記者だけでなく、NHKの記者という選択肢も出てきた。そのとき私の中にあったのは、「NHKであれば最初の配属先は間違いなく地方だから、地方の新聞記者と同じことができる」という思いでした。こうしてNHKに入り、念願かなって地方記者として勤務するようになったというわけです。

ありとあらゆる本を読む

読書の話に戻ると、中学生のときには、いわゆる「古典」と呼ばれるものは片端から読みました。たとえば川端康成の『伊豆の踊子』が教科書に出ていると、ほかの川端作品も読んでみて、「なんだ、スケベジジイではないか」と思ってみたり(笑)。特に、『眠れる美女』は衝撃でしたね。

西洋文学では、アンドレ・ジイドの『狭き門』やヘルマン・ヘッセの『車輪の下』などの名作はもちろん、SF(サイエンス・フィクション)にもはまりました。私が中学生のときは毎月19日の発売だった「S-Fマガジン」(早川書房)を書店でいの一番に買って学校に行き、それを休み時間に読んで、寝る前までに全部読み終える。フレドリック・ブラウンにアーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインラインなど、夢中になって読みました。

また夏休みには、エド・マクベインの「87分署シリーズ」を一気読みしましたね。これは、「アイソラ」という架空の街(モデルはニューヨーク)にある第87分署を舞台にした警察小説なのですが、毎日3冊ずつ、図書館に行って借りてきて、読み終わったら返しに行き、また新たに借りてきて読む、というのを繰り返し、翻訳されていた本はすべて読みました。

NHK職員になっても、本はつねに身の回りにありました。特にキャスターになってからは仕事の時間が決まっているので、岩波新書であれば往復の通勤電車の中で8、9割を読み、残りは家に帰って読んで、ほぼ1日1冊ずつ、年間で300冊は読んでいたと思います。小説、新書、ドキュメンタリー、経済学、国際情勢などなど、ありとあらゆるものを乱読していました。

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