パナ「美髪ドライヤー」1000万台ヒットの理由 美容家電は今やパナソニック家電の「顔」に

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そもそもパナソニックが美容家電の領域に進出したのは、戦前の1937年と古い。自然乾燥が当たり前だった時代に、「ホームドライヤー」として日本で初めてヘアドライヤーを発売したのが当時の松下電器産業だった。以来モデルチェンジを重ね、長年シェアトップに君臨してきた。ただ、必需品と化していたドライヤーの市場成長には限界がある。「トップシェアメーカーとして、自ら単価を上げていく努力が必要だと考えた」(久保課長)。

美容家電の中でも、ドライヤーの研究開発に注力してきた(撮影:今井康一)

狙いを定めたのが、傷んだ髪を美しくするという美容の切り口だった。パナソニックは旧松下電工の美容機器部門を母体に、髪の傷みをケアする研究開発の強化に動いた。

2001年にマイナスイオンの発生装置が搭載されたドライヤーを、2005年には微粒子イオン「ナノイー」がキューティクル(毛髪の表皮)の密着性を高めるナノケアシリーズを発売した。モデルチェンジごとに、紫外線によりダメージを受けた髪や肌のケア、毛先のまとまりに最適な風量に調節するモードの搭載など、機能面の改良も続けてきた。

「きれいなおねえさん」のCMが話題に

広告によるイメージ戦略も購買層の拡大に一役買った。2008年までは「きれいなおねえさんは、好きですか。」のキャッチコピーの下で、30代以上の美容感度の高い層にアプローチしてきた。

だが2014年からはターゲット層を20代まで引き下げ、キャッチコピーも「忙しいひとを、美しいひとへ。」に変更。その結果、働く女性を中心に、購買年齢の引き下げに成功した。宣伝キャラクターには若い層から人気を集める女優の水原希子さんを起用し、SNSや交通広告などでの宣伝も強化した。これまでのナノケアシリーズの累計販売は950万台に上り(2018年1月末時点)、1000万の大台も間近だ。

パナソニックの快進撃を目の当たりにした競合各社も次々と高級ドライヤー市場に参入してきた。シャープは2016年、頭皮をマッサージする「かっさ」を先端につけ、「プラズマクラスター」イオン発生装置も搭載した2万円超のドライヤーを発売。2016年には英ダイソンが4万円を超える製品を投入している。こうした競争が市場を刺激し、2017年におけるドライヤーの販売金額は、調査会社GfKジャパンによると2013年比で1.7倍という大きな伸びになった。

家電量販店ではパナソニックの美容家電の横で、ダイソンのドライヤーが売られていた(撮影:今井康一)

高級ドライヤーに財布のひもを緩めるのは、日本人だけではない。中国などアジア諸国からやってきた訪日観光客も、スマートフォンの買い物リストを片手に商品をあさる。羽田空港国際線ターミナル内の売店に設けられた海外旅行客向けのパナソニック商品の売り場にも、ドライヤーなどの美容家電が所狭しと並んでいる。

中国現地では2007年からナノケアドライヤーの販売を開始し、2012年時点では3万台しか売れなかったが、2017年には80万台を売った。パナソニックで家電事業を率いる本間哲朗専務執行役員は、「最高級のドライヤーが一番の売れ筋商品だ。国民所得が高くなってきた国のお客様にとっての価値とは何なのか、よく考え直さなければならない」と語る。今や美容家電は、パナソニックの家電事業全体における高成長分野として、重点投資の対象になっている。

必要性を説いても売れないのなら、欲望に火をつけろ。パナソニックにおける美容家電の快進撃は、伸び悩む家電が新たな活路を見いだすうえでの、1つのヒントになるかもしれない。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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