長期金利、望みもしない過剰な低金利に? 市場動向を読む(債券・金利)

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基本的に金融機関は預かった資金を運用するのが仕事であるから、膨大なキャッシュを抱えた状況というのは、将来、「ローン需要の強まり」や「長期金利の上昇」によってキャッシュを振り向ける有効な投資先が出てくることが前提となる。そういう変化が起きなければ、いつまでも「資産の流動化」を続けていくわけにはいかないだろう。

今後は国債を買い戻す動きへ

今後、米国の長期金利が9月上旬までのように大幅に上昇する環境となれば、それがいずれ日本の長期金利にも波及するとの連想も働きやすい。しかし、現実には米国の長期金利は市場の予想を裏切って低下してしまい、国内のインフレ動向は非常に緩やかにしか変化しない。そういう現状においては、投資家は国債を当座預金に振り替える「資産の流動化」のペースを、多少、落としたいというインセンティブが働きやすくなる。つまり、市場で国債を買い戻す動きが強まりやすい。

その意味では、米国の長期金利は今後もせいぜいレンジ圏での推移である、という予想を多くの市場参加者が持つようになれば、そのこと自体が、日本の長期金利を低下させる圧力につながってくるだろう。米国長期金利だけではないが、外部環境が日本の長期金利上昇期待を強めるように動いていかないかぎり、逆に日本の長期金利には低下圧力が強まっていくことになる。日銀にとっては、「管理相場」といった状態を超えて、逆に、望みもしない過剰な金利低下という「制御不能」な相場展開に移行してしまう可能性も、ないとは言えない。
 

森田 長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント執行役員/チーフストラテジスト、ウォールズ&ブリッジ代表

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もりた ちょうたろう / Chotaro Morita

慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、SMBC日興証券などで30年以上にわたりマクロ経済、金融・財政政策、債券需給などを分析し、2023年10月から現職。グローバル経済、財政政策、金融政策の分析などマクロ的アプローチを行うことに特色がある。機関投資家から高い評価を得ている。著書に『日本のソブリンリスク 国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社・共著、2011年)、『国債リスク 金利が上昇するとき』(東洋経済新報社、2014年)。

 

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