転倒者続出「女子スノボSS」現地で見た課題 強風で延期、決勝一発勝負の悔しさが残った

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翌12日決勝。天候は晴れだが、マイナス10度を下回り、持ち込んだPETボトルの水が凍ってしまった。

10時開始予定が遅れ、何度も場内アナウンスが流れた。ちなみに12日も延期になった場合、15日にさらに順延になる可能性もあった。しかし、14日も15日も雪の予報となっており、視界不良も重なるおそれがあった。

会場には幾度となく突風が吹いた。観客席にいた筆者ですら不安な気持ちになったが、選手の気持ちはさらに不安だっただろう。スタート前から待ち望んだ決勝を見たい気持ちと同時に、出場選手のケガが心配になる複雑な気持ちが漂った。10時開始予定の決勝は約1時間15分遅れで始まった。

13番目に登場した日本選手団女子最年少の16歳、岩渕選手はメダルを意識した攻めの滑りを展開したが惜しくも転倒、得意のバックサイド・ダブルコーク1080(キッカーで縦2回転、横に3回転)を封印せざるをえなかった。身長149cmの小さな体で大技も持つ「小さな巨人」は1本目の48.33点を伸ばせなかった。

優勝したのは前回のソチ・オリンピックの初代王者、スロープの女王の異名も取るジェイミー・アンダーソン選手(米国)。転倒せず磐石の滑りを披露、1本目83.00をマークし、そのまま同種目連覇を果たした。

強風の中での開催に疑問符がついた

強い風が吹いてる中で滑っている選手、吹いてない中で滑れている選手がいた。もちろん、自然の中でプレーするのが当たり前。天も味方にしなければいけない。皆、同じ条件で滑るので、結果は悪条件を言い訳にはできない。それは選手の成長を止めてしまうことにもつながる。

だが、運営側は選手が最大限のパフォーマンスをできるように環境をつくる使命があると痛感した。そして何より安全面だ。観ている側も選手の転倒を観に来ているわけではない。4年に1度、スポーツでこの日のために懸けてきた選手達の姿を披露する場でもある。

今回のスノーボード女子SS決勝では大きなケガ人こそ出なかったのは幸いだが、選手生命にもかかわる試合運営をしてはいけない。安全も確保できずに、選手はこのコースを命懸けで滑り、飛んだのは事実だ。実際練習時に転倒しケガ、棄権した選手もいた。

選手は4年間温めてきた、本来の実力を出せず悔し涙を流し、観客は命懸けのこの勇敢な姿に拍手と涙を浮かべた。

現地で観戦した岩渕選手の祖父母は「まずは、オリンピックに連れてきてくれてありがとうと伝えたい。レイラの笑顔がすてきだから、何よりこの舞台を楽しんでほしい」と語った。

決勝前日の2月11日、岩渕選手の応援に訪れていた母に心境を伺ったところ、「この(五輪の)舞台をまずは目標にしていたので、出られるということがすごくうれしい」とも話してくれた。

まだまだ、競技は終わったわけではない。岩渕選手をはじめメダル候補といわれたアンナ・ガッサー選手(オーストリア)が攻めの滑りを披露したように、12日に出場した選手たちは次にはビッグエアが待っている。

「今回の結果は引きずっていないですし、次に気持ちが向いているのでスロープとは割り切ってやろうと思います」(岩渕選手)

平昌に飛び立つ前、岩渕選手は「楽しんできたい。ビッグエアのほうができる技が多いのでぜひ見てほしい」とも話していた。19日に予選が始まるビッグエアに向け、切り替えが重要だ。

金 宏明 Body Gold代表取締役社長

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キム ガンミョン / GWANG MYONG KIM

元プロサッカー選手。元フットサル韓国代表選手。1984年東京都生まれ。流通経済大学経済学部経営学科卒。サッカー選手時代は日本、韓国、タイでプレー。引退後パーソナルトレーニングジムを設立。2017年に渡米し、米国でプロ選手復帰を経て欧州、中東、東南アジアの11カ国18地域での世界一周の挑戦を終えた。趣味は銭湯と神社巡り。アジアの良さを世界に伝え、日本と各国の橋渡し的存在になることが目標。

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