「自閉スペクトラム症」の人を取り巻く困難さ 極端にこだわる、空気が読めない…

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また、たとえ偉業と呼ばれるほどでない場合でも、ASDの特性がある自分の「ありのまま」を理解し、受け入れ、周囲の人にも「ありのまま」を理解してもらうことで「生きやすさ」を感じるようになった人は数多くいます。

ASDの特性は、基本的に生涯持続します。ただ、生きづらさは生まれ持ったものではありませんし、生涯その状況が持続するとは限りません。たとえいま生きづらいと感じていても、これからの未来に「生きやすさ」を感じられるような「変化を起こす」ことは、いまからでも、誰にとっても可能なことなのです。

無理のない「共助」が持続的なサポートにつながる

では、具体的にはどうすれば変化を起こすことができるでしょうか。

大人のASDに対するサポートは、ASDの人の「自助」、つまり、他人の力を借りることなく、自分の力で切り抜けることの割合が高くなります。「大人」ですから、自分で解決すべきと期待されやすいからです。

ただ、ASDの人は、自分自身を客観的に見ることが苦手です。また、社会的コミュニケーションが苦手という特性があります。「他者の心情を適切に想像すること」が苦手なために生じている問題です。自助だけで不十分な場合は周囲からのサポート、つまり「共助」が必要で、重要なウエートを占めることになります。

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たとえば、職場でASDの人が心掛ける「自助」として、先輩や上司の評価基準や価値観についての情報を収集することが挙げられます。情報収集の方法としては、先輩や上司が自分以外の他者と接している時の様子をよく観察するという方法があるでしょう。

「ああいうふうに振る舞えば、上司が怒り出すことはないのだな」と、観察をして評価を下げないような言動を探っていくわけです。

さらに、先輩や上司から注意を受けることへの対処法がわからずに悩んでいるのなら、改まって相談をして、意見を仰ぐのもいいでしょう。「相談に乗って話を聞いてくれる」とか「アドバイスをしてくれる」などのサポートが得られる可能性も出てくるからです。すなわち、ASDの人が「共助」を得る可能性を高めることにつながるわけです。

たとえば、「あの人は、進捗状況を子細に把握していないと不安になってきて、それでお説教が始まるから、細かく状況報告をするといいよ」「指示された内容だけでなくて、全体の状況を踏まえて資料を用意していることをアピールすれば、安心してもらえるし評価もよくなるよ」という具合に、ASDの人が自ら相談をしてみることによって初めて、具体的な対処法を助言してもらえる可能性が出てくるわけです。

当人が繰り返し取り組み続けているからこそ、周囲の人も、あれだけ苦労しているのなら何か協力したい、という気持ちが自然と湧き上がってくることもあります。

このような状況になってくると、ASDの人本人にとっても、周囲の人にとっても、生きづらさが軽減する可能性が高まるのではないでしょうか。

備瀬 哲弘 精神科医

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びせ てつひろ / Tetsuhiro Bise

1972年沖縄県那覇市生まれ。精神科医。吉祥寺クローバークリニック院長。精神保健指定医。琉球大学医学部卒業。同附属病院、旧・東京都立府中病院精神神経科、聖路加国際病院麻酔科、JR東京総合病院メンタルヘルス・精神科などを経て、2007年より現職。著書に『発達障害でつまずく人、うまくいく人』(ワニブックスPLUS新書)、『大人の発達障害』(集英社文庫)などがある。

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