「新専門医制度」は医師にも患者にも"迷惑"だ 地方の医師不足を助長、新制度は問題だらけ

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新制度で総合診療専門医は、東京都や神奈川などの都市部では離島などのへき地へ1年間勤務することが義務づけられた。

「若手医師を強制的に地域に行かせるのではなく、医療資源の乏しい地域でもやっていける実力をつけてから地域で活躍してもらうべきです。もちろん指導態勢が整っていればへき地でもかまいませんが、今回はそのことよりも『へき地かどうか』という条件のほうが優先された。良医を育てる環境を壊してまで地域に医師を配置するのは本末転倒です」(前野医師) 

専門医の研修期間は3年とはいえ、20代後半の修業の場をどこでいかに過ごすかはその後のキャリアを左右する。都内の大手民間病院で外科専門医を目指す26歳の男性はこう話す。

「外科はどれだけ自分で執刀できるかが勝負です。大学病院よりも民間病院のほうが症例を積めるので、この病院を選びました」

制度に巻き込まれアホらしい

4月から大学付属の医療センターで内科専門医の研修を受ける27歳の女性は言う。

「新制度で内科のハードルが上がり、別の科に希望を変えた人もいます。内科は症例提出の件数が増えたので、一つの病院でいろんな症例を見られる大きな病院のほうが有利だと思います」

一方で専門医取得にこだわらず、独自のキャリアを歩む若手医師もいる。
「制度に変に巻き込まれ、アホらしいなと思ってしまって」

こう話すのは、福島県南相馬市の民間病院で働く山本佳奈医師(28歳)だ。

山本医師は1年前まで初期研修医として南相馬市立総合病院で働いていた。研修修了後も南相馬市で働きながら産婦人科の専門医を目指したいと思っていたが、そこには専門医研修を受けられる病院がなかった。専門医を取得するには大学病院に行くしかなかったが、地域に残ることを選んだ。

「実際に医療過疎地で働かないと、その地域の実情や患者さん、家族の声はわかりません。一人前になるには主治医としてひとりでも多くの患者さんをみるしかないと思っています」

山本医師は現在、南相馬市の大町病院で唯一の内科常勤医として働いている。ときに周辺病院の先輩医師に協力を仰ぎながら、外来と入院病棟の両方をこなす。若手の医師としては重責に思われるが、徐々に病院スタッフや患者の信頼を得つつある。

「地域で働くことを強制されたらやる気を失いますが、魅力ある地域には若い人が集まるし、多くの症例も積めます。やりたいという人は私以外にもいると思うんです」

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