「大雪時の間引き運転は不要」元運転士が激白 鉄道の大雪対策に必要な投資は進んでいる

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ただ、現行の運用では非常ブレーキは空気ブレーキのみなので、そこに不安要素が残る。運輸安全委員会による元住吉の鉄道事故調査報告書でも「車輪踏面(とうめん)と制輪子摺道(しゅうどう、「滑りながら動く」の意)面間の摩擦係数が大きく低下」としている。つまりここが唯一の弱点なのだ、

レジンという部材を使った制輪子が雪に弱いのだが、雪国仕様の鉄分の多い制輪子を使えば、この弱点は克服できる。車のタイヤを冬にスタッドレスタイヤに交換するように、冬季限定で制輪子を鉄分の高いものに交換(すべてを交換する必要はなく半数で十分)を行えば、もはや間引き運転する理由など見当たらない。

厳しい言い方になるが、雪でダイヤが乱れているにもかかわらず、列車の運転順序の変更や打ち切り等のいわゆる運転整理の対応ができない、実務者の能力低下と思われる事象が散見され、これが混乱に拍車を掛けている。

運転指令は永年の経験がモノをいう現場で、その力量は一朝一夕で得られるものではない。近い将来はAIにとって代わられるとの見方もあるが、そのベースとなるデータ作りには先人たちの蓄積されたデータが必ず必要である。そのノウハウを持った人間が社内にいなければ、データは作れない。

「鉄道は経験工学」と言われるゆえんは、すべての場面や事柄にあてはまるのだが、経験を基にした分析と改善が行われなければいけない。その意味で、現場を大切にしない会社は自ずと先が見えてしまう。

安定運行は社会的使命だ

昔、雪の日の対応について当時の上司に話したところ、「年間数日しかないこの日のために、そんな投資はできない」と言われた。

しかし、当時と比べれば、電気融雪器、シングルアームパンタ等はすでに導入されており、この年間数日しかない日のための投資はかなりの金額になっている。あと少しだけ投資すれば、雪の日の東京でも安定した輸送が行えると信じてやまない。

大雪や台風のたびに間引き運転をしていたのでは利用客のニーズに応えられない。社会的使命を果たせない鉄道事業者には、目を覚ましてもらわなければならない。間引き運転の見直しは急務である。

細井 和雄 元京王電鉄運転士

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ほそい かずお / Kazuo Hosoi

1956年生まれ。京王帝都電鉄(現在の京王電鉄)に1977年入社、工場勤務などを経て、1982~1998年に運転士。その後人事部、工務部、総務法務部を経て、2016年定年退職。

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