ソニー平井社長がバトン渡した異色の「強面」 管理畑一筋、表情崩さぬ吉田CFOの一手に注目

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ただ、冬の時代を乗り越えた結果として、今の好決算があることは間違いない。社長交代と同日に発表された2017年4~12月期の業績は、売上高が前年同期比15.7%増の6兆5929億円、営業利益は同約3.6倍の7126億円で着地した。為替の追い風も大きいが、ソフトウエアを含めたゲーム事業やイメージセンサーなど半導体の好調、構造改革を経て赤字から回復したテレビなど”黒モノ家電”の収益性が回復してきたことも利益を押し上げた。

通期の業績予想は、昨年10月に一度上方修正したものを今回さらに上乗せ。平井社長は20年ぶりの最高営業益、過去最高純益の更新を花道に、肩の荷を下ろすことになる。今後の役割については、「あくまで社長の補佐をしていくのが私の仕事。(北米に拠点がある)エンタメ事業で現地での対話をお手伝いしていく」(平井氏)と語った。

次なる収益柱に、何を育てるのか

今が絶好調である分、バトンを渡された吉田次期社長に対する要求水準は当然高くなる。2018年4月から始まる新3カ年計画で、吉田氏はどのような戦略を描くのだろうか。ソフトを含めたゲーム、半導体、金融事業などが収益の柱となる現時点のソニーだが、次の屋台骨が何になるのかは未だ明確になっていない。さらに、売り上げ減に歯止めがかからないスマートフォン「Xperia」をはじめとしたB to C向け商品の方向性は、論点になるだろう。

社長交代会見で「九州出身であることの経営方針への影響」を問われた吉田憲一副社長は、やっと少しばかり表情を崩した(撮影:尾形文繁)

今後の方針について吉田氏は、「感動を提供する会社として、これまでとB to Cに対する考え方は変わらない」「映画やゲームなどのIP(キャラクターなどの知的財産)の活用や、現在3150万人の会員数を獲得しているプレイステーション4の月額課金サービスのような、継続的に収益を上げるビジネスも重要視していく」と”平井路線”を継承することを示した。

一方でソニーの課題を問われた吉田氏は、「時価総額がすべてではないが、現在時価総額の上位を占めるのはテクノロジーの会社だ。ソニーもテクノロジーの会社である以上、危機感は抱いている」といかにも財務出身らしい答え。実際、かつてソニーにiPodを売りこんだこともあるアップルの時価総額は世界首位の約94兆円。続くグーグル(上場企業は持株会社アルファベット)も約89兆円。対するソニーは、7兆円弱と、彼らの背中すら見えない。

平井氏が終始軽やかな表情だったのに対し、慎重な発言、こわばった表情をなかなか崩さなかった吉田氏。再成長に向けまずはどのような一手が飛び出すのか。その詳細は、今年の春にも明らかになる予定だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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