「池の水ぜんぶ抜く」成功が映すテレビの将来 テレビ東京系正月特番、高視聴率を叩きだす

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『池の水ぜんぶ抜く』シリーズの放映枠=『日曜ビッグバラエティ』の裏番組で、安定的な人気を獲得しているのは、日本テレビ系の『世界の果てまでイッテQ!』だが、世界の「果て」に対して、テレビ東京は、池の「底」という、新しい「見たことのないもの」、新しい鉱脈を探し当てたということになる。

ここまで述べた、「池の水ぜんぶ抜く」というアイデアの斬新さに加えて、さらに視聴率を押し上げた要因として、1つには、外来種対在来種という、非常に分かりやすい対立図式にまとめ上げていく構成の妙もあろう。

言わば、悪役(ヒール)=外来種と善玉(ベビーフェイス)=在来種の戦いという「プロレス感覚」の演出である。存在すら知らなかったアリゲーターガーやソウギョなどの外来種が、いかにも悪役レスラーのようなグロテスクな見た目をしているのも、「プロレス感覚」をいやおうなしに盛り上げる。

また、池の中から、外来種やゴミが取り除かれるごとに、「デトックス感覚」とでも言うべき快感が発生することも指摘しておきたい。そう言えば、『日曜ビッグバラエティ』枠では、他にも『ニッポン激ヤバ地帯を大掃除!坂上忍のピカピカ団住民を守れ!』や『とりあえず、1回全部出してみる!家の中スッキリ片付け大作戦』など、「デトックス感覚」を活かした企画が多い。

似た企画の氾濫は脅威になるか

さらには「外来種やゴミを池に捨てるのはやめて、生態系を守ろう」という、教育的な読後感を残すことも、前々回『「君たちはどう生きるか」がヒットした必然』(2017年12月10日配信)に取り上げた書籍『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)と同様、「親が子供に見せたいコンテンツ」として支持される要因となる。

もちろん、今後に向けて、不安がないわけではない。テレビ東京が先鞭をつけた『大食い選手権』のように、似た企画が他局で氾濫していく可能性もある。しかし、私が思うのは、似た企画が氾濫しても、そのときは、また新しい「見たことのないもの」を探せばいいと思うのだ。それが「テレビ東京らしさ」ではないか。池の水を抜いた後は、湖の水だ、川の水だ、いや、海の水ぜんぶ抜いてしまえ――。

それが、アリゲーターガーやソウギョよりも強敵な外来種のスマホとネットに対する、在来種=テレビメディアの唯一の戦い方だと思うからである。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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