日本ガバナンス 「改革」と「先送り」の政治と経済 曽根泰教著 ~「ねじ」と「たが」を締め直すには何が必要か

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日本ガバナンス 「改革」と「先送り」の政治と経済 曽根泰教著 ~「ねじ」と「たが」を締め直すには何が必要か

評者 ノンフィクション作家・評論家 塩田 潮

 福田康夫首相の突然の退陣表明を見て、ガバナンスに問題ありと受け止めた人は多かったのではないか。その意味で、絶好のタイミングの刊行である。

著者は著名な政治学者だが、一方で民間政治臨調や「せんたく」の活動などを通じて、現実の政治に深くコミットする有数のオピニオンリーダーだ。研究成果と実践体験を基に、現代日本の病巣ともいえるガバナンスの問題を考察・分析し、併せて問題解決の処方箋を提言する。

ガバナンスは一般に統治と訳されるが、著者は「それにはやはり問題が多い」「『制度』を抜きにガバナンス問題を語ることはできない」と強調し、「ガバナンスとは、政府に限らず、組織が重要な決定や舵取りをするときに、誰が権限や責任をもつのか、また、その運営のチェックのメカニズムをどうするか規定すること」と説く(「序」)。そこが曖昧で、機能せず、制度も未確立だから、「今の日本はねじが緩んでいる」「たかが外れている」(「はしがき」)といったガバナンス不全現象があちこちで生じるのだ。

本書が対象にするのは1990年代前半以後の「失われた15年」と、同時並行で展開された「改革15年」である。その時代の政治の構造改革、首相主導と政策決定過程、マニフェスト、二院制のあり方、さらに不良債権処理や経済・産業構造の改革問題まで視野に入れてガバナンスの本質に迫る。

ガバナンス問題という点では2代連続の投げ出し首相辞任ほど深刻な事態はない。トップが権限や責任を自覚せず、権力の運営をチェックするメカニズムも利かない「漂流政権」こそ、日本を覆うガバナンス不全現象の象徴であろう。「ねじ」と「たが」を締め直すには何が必要か。本書はその条件と方法を探るのに欠かせない一冊である。

そね・やすのり
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。1948年生まれ。同大学大学院博士課程修了、同大学法学部助手、助教授、教授を経て90年総合政策学部教授、94年から現職。米イェール大学客員研究員、エセックス大学客員教授、ハーバード大学客員研究員等を歴任。

東信堂 2940円 454ページ

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