「親の失敗談」が子どもの"最高の栄養"になる 「どう生きるか」を考える材料は身近にある

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ほかにも次のような話をしました。かくれんぼのときに肥だめに落ちて、悲惨な目に遭ったこと。登校中に犬のウンコを踏んで、手を汚さずに取るために悪戦苦闘したこと。友だちに比べて自転車に乗れるようになったのがかなり遅かったこと。家にかかってくる電話に出られなかったこと。ソロバンの練習をサボって3級の試験に落ち、親に何と言い訳しようかと、雨の中をとぼとぼ歩きながら一生懸命考えたこと。トイレに落書きをして父親にばれ、弟のせいにして良心の呵責に苦しんだこと。中学の部活動はテニス部で、かなり下手だったこと。中学の数学の授業中に、あごで教科書をめくって先生にものすごくしかられたこと。

子どもにだけでなく、懇談会のときには保護者にも次のような話をしました。小学生の頃はチックがよく出たこと。中学3年生で高校を受験するとき、緊張のせいかジンマシンになったこと。高校のクラスは英語科で、女子が39人で男子が3人だったこと。大学入試に全敗して、親に相談もせずに勝手に就職し、本の訪問販売のセールスマンをしたこと。やはり大学に行きたくなって浪人したこと。浪人中に、不潔恐怖症、先端恐怖症、対人恐怖症などの強迫神経症になって、精神科の病院で診てもらったこと。大学では読書しまくったこと。アメリカとインドに一人旅で行ったこと。保護者の皆さんも、こういう話はよく聞いてくれました。

話す人と聞く人の心をつないでくれる

杉山少年物語は、多くの場合、うまくいったことよりも失敗したことのほうが受けました。でも、時には一生懸命頑張って成功した話もしました。私は水泳が苦手で、小学生の頃はまったく泳げませんでした。中学1年生の夏休みに、友達と学校のプールに通って、やっと犬かきで泳げるようになりました。なぜ犬かきかというと、水に顔をつけなくていいし、息継ぎもいらないからです。犬かきならできそうだと気がついたので、犬かきに懸ける決意をしました。そして、手のかき方と戻し方、足の動かし方など工夫して、100メートル以上泳げるようになりました。この話には子どもたちがけっこう感動してくれました。また、小学生のとき勉強が苦手だったので、中学に入ってから英語だけを頑張って、学年1番になったことも話しました。これはけっこう自慢話も入っていますが、子どもたちはよく聞いてくれました。

高学年の子どもたちにいちばん受けたのは、中学生の時のフォークダンスの話です。男女が手をつないで踊るオクラホマミキサーというダンスがあって、曲の途中で男女のペアが入れ替わっていくのですが、次に好きな女子と踊れるという直前に曲が終わるということがよくありました。そのときの残念さ、運良くお目当ての子と踊れたときのうれしさ、この辺りが聞きどころです。

こういう話は、話す人と聞く人の心をつないでくれます。心理学の言葉を使っていえば、自己開示によって親密度を高めることができるということになります。つまり、この人も自分と同じ人間なんだということがわかることで、ぐっと親しみが増すのです。「お父さんもドジや失敗をしていたんだ」「お母さんも運動が苦手だったんだ」と感じれば、自然に親しみが湧くのです。

私自身、子どもの頃、授業から脱線した先生の話が大好きでした。よく覚えているのが高校生の時の数学の松永先生の話です。私は数学が大の苦手で授業はまったくわからず、当然、先生の話も聞いていませんでした。でも、その先生はよく自分の話をしてくれて、そういうときだけはよく聞きました。

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