好調な日立の先行きに影、2つの「不安要因」 2018年度は利益率8%目標達成も視野だが…

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日立の収益力の向上が鮮明になればなるほど、2つの不安要因の影が濃くなる。

1つは、南アフリカでの石炭火力発電プロジェクトをめぐって、三菱重工業と争っている超過費用の負担問題だ(「好調日立を悩ます『南ア火力発電事業』の行方」)。

2014年2月に三菱重工と日立は火力発電事業を統合。当時の会見では、三菱重工の大宮英明社長(現会長)と日立の中西宏明社長(現会長)は固い握手を交わしていたが、今では両社は争う関係だ(撮影:山内信也)

2014年2月に三菱重工と日立は火力発電事業を合弁会社(三菱重工65%、日立35%)の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)に統合。事業統合に当たり、仕掛かりだった南アのプロジェクトは、統合前は日立が、統合後はMHPSが責任を持つことを前提に、三菱重工に譲渡された。しかし、最終譲渡金額の調整がつかず、昨年7月末に三菱重工が日立に対し、約7743億円の支払いを求めて日本商事仲裁協会(JCAA)に仲裁を申し立てている。

西山CFOは「仲裁プロセス入りしており守秘義務を負っている」とした上で「仲裁の場でわれわれの主張をしていくことと並行して話し合いでの解決を図る」と述べるにとどめる。この件では日立は前期までに一定の引当金を計上している。金額は非開示だが、仲裁判断次第で数千億円の損失計上のリスクがあると見られる。

英国原発プロジェクトが抱える数々のリスク

もう1つが、英国で進める原子力発電プロジェクト・ホライズンだ。

原発開発会社ホライズン・ニュークリア・パワーは日立の100%子会社で、同社が日立に原発を発注するスキームとなっている。つまり、発注者であり、受注者であるという利益相反の関係にある。建設費用が超過した場合、日立に逃れる術はない。また、プロジェクトのスキームが現状のままで非連結化を出来なければ、原発そのものをバランスシートに計上し続ける。内部取引になるので、原発メーカーとしての収益も計上できない。さらに原発による発電事業のリスクを抱え続けることになる。

このため、ホライズンへ出資者を募り、少なくとも日立の非連結とすることを、2019年内の最終判断でゴーサインを出す条件としてきた。今回も西山CFOは「最低でも持分法化し、資産をオフバランス(簿外)化するのが条件。英国政府との交渉や諸条件を総合的に判断する」とこの条件は変わらないとの見方を示した。

日立製作所の中西宏明会長は昨年末のインタビューで、「原子力事業は手放せない。この産業はいったん手掛けた以上、廃炉まで面倒を見る必要がある」と原子力事業に取り組む覚悟を語っている(撮影:梅谷秀司)

ただ、同プロジェクトについては日本政府も支援を表明しており、日本政策投資銀行(DBJ)や国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)など政府系金融機関の参加が検討されている。こうした動きは、プロジェクト推進や事業会社への出資者探しには追い風ではある。

反面、純粋なビジネスベースでの判断が難しくなる恐れはないか――さらに日本経済団体連合会(日本経団連)の次期会長に日立の中西宏明会長が内定したことで、その傾向が強まるのではないか――これが昨今、日立に対する消えない懸念だ。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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