日本は今こそ「核問題」を真剣に議論すべきだ 石破茂×丹羽宇一郎対談<前編>

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丹羽:凍結ができないとなると、北朝鮮が自分から核を手放すとは考えられないので、日本は核の脅威にさらされ続けることになります。何かよい手はありますか。

石破:国民を守る手段としては、核の傘、ミサイル防衛、国民避難。核の傘以外にも、日本はできることがいっぱいあります。たとえばいま、自民党の中で議論しているんですけれども、ミサイルを撃ち落とす能力というのはどこまであるんだと。イージスシステムによるSM-3迎撃ミサイルで撃ち落とし、これで撃ち落とし損ねたものを地上のパトリオットシステムによるPAC-3迎撃ミサイルで撃ち落とす、これで相当高い確率で排除できるようにはなっているんです。

丹羽:でも、演習もやらないで、そんなもの撃ち落とせると言ったって、技術的に大丈夫なんですか。

石破:演習も実験もちゃんとやっています。ですが仮に百発百中としても、100発しか迎撃ミサイルがなければ、相手が120発撃ってきたらどうにもならないですよね。そうすると、北朝鮮のミサイル基地を攻撃する能力を保有することは、別に憲法にも違反しませんし、専守防衛にも違反しませんし、技術的にも可能なわけです。

核シェルターの必要性は?

石破:また、いまミサイル攻撃されても、国民はどこへ逃げたらいいのかわからない。改めて調べてみたらイスラエルとスイスは、シェルターの面積を国民で割ってみると100%。国民をすべて収容できるだけのシェルターがあります。たぶん1人何平米で計算するんだと思いますけれども。

丹羽:シェルターってどれくらい深く掘るんですか。

石破:防衛庁長官のときに調べたんですけれども、広島では、原爆の爆心地近くでも地下1階にいた人は、そのまま人生を全うされた。戦後30年ぐらいご存命だったらしいんですね。地下1階にいるだけで助かるんだとわかりました。

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丹羽:表へ出たらダメですよね。

石破:それはダメだと思いますが、地下にいた人は死なない確率が非常に高い。イスラエルも、スイスも、スウェーデンも、フィンランドも、アメリカも、イギリスも、フランスも、シンガポールも、地下シェルターを持っている。

韓国ソウルに至っては300%、つまり、ソウルに整備してあるシェルターは、1人分のスペースで割るとソウル市の人口の3倍を収容できると言われています。北朝鮮と戦争になればソウルは火の海だと言うんですけど、300%のシェルターだったら火の海になっても死者はぐっと減らせます。

丹羽:それは1億2000万人の日本と5000万人の韓国との違いとか、田舎と都会の違いとかいろいろありますよね。結局、力と力でやったときに、世界的に見たら、これは本当に地球を滅ぼすかどうかという結論に最終的に行ってしまう。やはりこれは何としても避ける、ということを考えないといけないのではないでしょうか。

石破:そう思います。

丹羽:しかし、一方的にやられてしまうわけにはいかないから、防衛力というものを、専守防衛という範囲で確保しなきゃいかんだろう。

石破:ですから、核の傘の実効性、ミサイル防衛の迎撃精度、策源地への反撃能力の保有、シェルターの整備という、パーツパーツの信頼性を上げるしかないのかなと思っています。

丹羽:日本人は核や戦争について、正面から議論したがらない。こうした議論をもっとしなきゃいけませんね。

(インタビュー構成:亀谷敏朗)

(後編に続く)

丹羽 宇一郎 日本中国友好協会会長

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にわ ういちろう / Uichiro Niwa

1939年愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。同社社長、会長、内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画WFP協会会長などを歴任し、2010年に民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事。著書に、『丹羽宇一郎 戦争の大問題』東洋経済新報社、『人間の器』幻冬舎、『会社がなくなる!』講談社など多数。

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