日本は中東欧諸国との関係を深めるべきだ 「懐の深さ」が求められている

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筆者は1981年から1年間、政府給費留学生としてユーゴスラビア(当時)のザグレブ大学に留学した経験がある。当時は、バルト三国とウクライナはソ連の一部であり、ポーランド、東ドイツ、チェコスロバキア、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア、アルバニア、ルーマニアが東欧の社会主義国として存在していた(モルドバは存在していなかった)。

これらの国は、ポーランド、東ドイツ、チェコスロバキア、ハンガリーといったソ連以上の工業力を誇る国と、ユーゴスラビア、アルバニア、ブルガリア、ルーマニアといった農業地域に分かれていた。前者の国々は、社会主義の産業力の最先端に位置し、車や電気製品などの輸出国だった。後者はもっぱら農業国として存在し、ともにコメコン(ソ連・東欧の相互経済協力機構)と振替ルーブル制度(ルーブルを基準にした相互決済機構)という経済的分業体制の中で、それぞれの地位を得ていた。

「拡大EU」がもたらした問題

1989年にベルリンの壁が崩壊して以後、これらの地域は一気に変化する。工業国であった東ドイツは西ドイツに吸収され、ポーランド、ハンガリー、チェコはドイツやオーストリアの経済的後背地となる。

ユーゴスラビアから独立したスロベニア、チェコから独立したスロバキア、ソ連から独立したバルト三国は国が小さいこともあり、ある産業に特化し、それなりの経済的安定をもっている。ドイツやオーストリアに近い地域は、低賃金による下請け工業の地域として地位を確立していった。いわばこれらの諸国は中央であるドイツ、オーストリアの半周辺の位置に組み入れられたのだ。

しかし、バルカン地域にある、クロアチア、セルビア、ブルガリア、マケドニア、ルーマニア地域は、こうした後背地の外にある、周辺地域として取り残されることになる。西ヨーロッパの最富裕国ルクセンブルクと最貧国ウクライナでは、1人当たりの所得がおよそ10倍も違うといった状況が、拡大EUの新たな問題として浮上している。

もっともこれらの地域には利点として、石油や天然ガスをロシア地域から輸入できるという点がある。さらに外交関係はよくはないとしても、トルコ、ロシア、中東といった地域との交易において、これらの地域は、西ヨーロッパ諸国以上に有利な地理的位置をもっている。バグダッドやテヘランから西ヨーロッパに行くトラックはこの地域を通る。しかし、現在トルコ問題、ロシアとウクライナの紛争といった流れを受けて、大きな経済発展の可能性を封じられている。

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