大企業製造業の景況感、リーマン前水準を回復 日銀短観、消費税決断を後押しする内容

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10月1日、日銀が1日発表した9月短観では、大企業製造業の業況判断DIがプラス12と、3四半期連続で改善した。都内で昨年12月撮影(2013年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 1日 ロイター] - 日銀が1日発表した9月全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業製造業の景況感が2008年9月のリーマンショック前の水準を回復し、内需好調や円安を背景に大きく改善した。

企業の価格転嫁も進み、非製造業では販売価格判断が上昇超過に転じるなどデフレ脱却への動きもうかがえる。

ただ、海外需要は改善が止まり、輸出企業の収益改善は円安による採算改善が主に寄与しているとみられる。先行きの景況感も横ばいとなり、増税前の駆け込み需要が予想される割に企業は慎重だ。設備投資は計画自体はしっかりしているものの、実施が遅れていることが課題となりそうだ。

<市場予想大きく上回る改善、予想に反し先行きに慎重さ>

大企業の業況判断DIの改善は、製造業・非製造業ともに3四半期連続。特に製造業はプラス12と前回6月調査から8ポイントの改善。民間調査機関を対象にしたロイターの事前調査ではプラス7が見込まれていたが、結果は予測を大きく上回った。

水準は2007年12月調査のプラス19以来の高さで、リーマンショック後の水準では最高となり、リーマン前の水準に戻った。

大企業非製造業や中小企業のDIも改善しており、景気回復や円安進行などを背景とした企業マインド改善が続いていることが確認された。

非製造業DIもプラス14となり、同2ポイント改善。ロイターの事前調査と同水準となった。すでに景況感は過去と比較しても高水準となっている。

中堅・中小企業を含めた全規模全産業ベースのDIはプラス2で、2007年12月調査以来のプラス圏に浮上。円安進行や堅調な内需などを背景に、自動車や電機機械など輸出関連や、建設、小売など幅広い業種で改善がみられ、全28業種中、大企業で19業種、中小企業で20業種が改善した。

一方、気になるのは先行き改善幅が小幅にとどまった点だ。事前予想では12月にかけて一層の改善が見込まれていたが、大企業製造業はプラス11と7四半期ぶりの悪化が予想されている。非製造業も横ばい。

本来であれば、12月にかけて増税前の駆け込み需要で内需が盛り上がると予想され、海外経済も持ち直しが見通されているにもかかわらず、企業はさほど楽観ししていない。輸出売上げ見通しがさほど伸びていないことや、公共工事の下期はく落などが背景と見られる。

<上期大幅増益も下期に弱気、設備投資は実行に焦点移る>

13年度の売上・収益計画は、全規模全産業ベースでも増収・増益が見込まれている。このうち大企業全産業の13年度の売り上げ計画は前年比3.9%増、経常利益計画は同13.9%増と、それぞれ上方修正されている。上期の増益拡大が主な要因。

他方で、下期について企業は慎重に見ている。特に輸出売上高の上方修正幅は0.4%増と、国内売上高見通しの1.1%増を下回る。

背景にはアジア向け輸出の停滞など、これまで改善してきた外需の需給判断が前回の5ポイント改善からは横ばいにとどまった影響もありそうだ。それでも為替の下期前提レートが94円台と前回から3円の円安修正となり、輸出企業の増益幅が拡大した。足元の為替レートは98円台で推移しており、このまま推移すれば増益余地がありそうだ。

13年度の設備投資計画は、大企業全産業で前年度比5.1%増、前回調査から0.3%の下方修正となったが、これは9月短観の季節パターン通り。中小企業は全産業で8%のしっかりとした上方修正となった。

問題は、投資計画通りに実績がついてくるかどうかだ。実績を確認できる法人企業統計では、4─6月の設備投資が全体で前年比0.01%増と3四半期ぶりプラスとなったものの、投資計画に比較するとわずかな拡大にとどまっている。

<市場に「意外感」、安部首相の消費増税判断を促す>

9月短観で大企業製造業のDIが予想を上回る改善を示したことを受け、1日の東京市場は、日経平均<.N225>が前日比200円を超えて上昇するなど短観結果を素直に好感する動き。外為市場も円安方向の動きとなっている。

市場では、短観について「意外感があった」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニア債券ストラテジストの戸内修自氏)との指摘が多い。もっとも販売価格判断DIが小幅の上昇になったことなどから「デフレ脱却に向けた歩みは相変わらずゆっくりとの印象だ」(同)との声も出ている。

安部晋三首相は9月短観を踏まえ、今夕にも来年4月の消費税率引き上げを決断する見通し。市場では短観を踏まえて「アベノミクスが政策面で最も配慮する大企業が予想以上に改善したことで、短観は消費増税を促す結果になった」(東海東京証券・チーフエコノミストの斎藤満氏)とみられている。

(伊藤純夫 竹本能文 中川泉 編集;田巻 一彦)

*内容を追加して再送します。

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