新iPhoneが示す、アップルの恐るべき堅実さ 「3日間で900万台」の次にくる第2弾ロケット

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OSの断絶問題に取り組むアップル

もうひとつ、9月23日にアップルが発表したプレスリリースには、iPhone発売に先駆けてリリースしていたiOS 7のインストール数が2億台を突破したことが記されていた。アップルが開発者向けイベントWWDCでも、ユーザーのほとんどが最新OSを利用しているというAndroidに対する優位性を強調していたため、iOS 7への移行速度には注目していた。

いくつかの企業らがリポートするウェブトラフィックからの推測によると、リリースから1週間で半分以上のiOSによるトラフィックが、iOS 7に移行していたことがわかっている。これは、iOS 6がリリースされたときよりもハイペースであり、新型iPhone販売の進行とともにさらに数字が高まっていくだろう。

iOS 7はiPhone向けのOSとしては2007年以来、初めての大幅なデザイン変更となる。さまざまな新機能とまったく新しい見た目を実現してユーザーを引き付けたこと、2010年に発売されたiPhone 4移行をサポートしていること、またパソコンなしでの手軽なアップデートを実現していることから、ユーザーがより簡単にアップグレードを行っているのではないか、と考えられる。

ユーザーの移行が進めば、開発者も新しいOSやデザインに対応したアプリを開発するモチベーションになり、もちろん互換性は残されているが、アプリも含めて新しい見た目への移行が急ピッチで進んでいく。こうした速い速度でのプラットホームの刷新は、今後、アップルが新OSを前提にした新しい展開を取り組もうとしたとき、アドバンテージになることは言うまでもない。

巨大な堅実さがクック氏の流儀

ジョブズ氏時代ほどの魅力が薄れた、という声は、ジョブズ氏が亡くなってからのアップルに数多くむけられてきた。しかし後を引き継いだティム・クック氏は、派手さ以上に怖いほどの堅実さでアップルのビジネスを拡大させている。iPhone 5sとiPhone 5cがリークされ放題で驚きが少なかったことと、900万台という数字はコントラストを見せ、両リーダーの流儀の違いをくっきりと際立たせているようだ。

このことはマイクロソフトでのビル・ゲイツ氏とスティーブ・バルマー氏の違いにも似ている。カリスマ創設者とそれを引き継ぐ人の戦い方は違う。バルマーは確実にマイクロソフトを大きな会社に成長させた。しかし本連載でもご紹介したとおり、マイクロソフトもあと1年で次のリーダーを迎える。ビジネスは大きく拡大したが、トレンドを設定する役割を担うことはできていない。これが、アップルの数年後の様子となるかどうか。

もしもクック氏が堅実さの裏で、驚くような新製品を用意しているなら、とても楽しみなことだ。しかし振り返ると、それも堅実さを語る材料になっているかもしれない。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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