相鉄の「新型車両」は、いつ都心を走れるのか 東横線渋谷直通に不安要素、小田急も強敵

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JR線、東急線への乗り入れには、単にレールがつながるという以上の意味がある。新宿、渋谷、池袋といった都心のターミナルを拠点に持つほかの大手私鉄に対し、相鉄のターミナル駅は横浜駅。そこから都心に向かうには、いったん改札を出て乗り換える必要がある。それだけに都心への直通運転は相鉄の悲願であった。

相鉄の新型車両「20000系」の車内には鏡が設けられている。都心直通に向けた相鉄の意気込みが感じられる(撮影:尾形文繁)

20000系の車内には鏡が設置されている。「かつての相鉄線の車両にも設置されており、横浜に買い物に行く女性が鏡を見て身だしなみを整えていた。鏡は東京への身近な足となるシンボル」と相鉄担当者。こんな細かい部分にも都心乗り入れへのこだわりが感じられる。

相鉄・東急直通線の事業概要によれば、相鉄は東横線・渋谷方面、目黒線・目黒方面という2つの路線に乗り入れることになっている。東横線は東京メトロ副都心線経由で東武東上線、西武池袋線などに、目黒線は東京メトロ南北線、都営三田線に乗り入れており、東急線から先の路線にも乗り入れるかどうかが気になるが、相鉄側は「認可を得ているのは東急線内まで。その先は決まっていない」と言葉を濁す。

小田急ダイヤ改正で新宿方面が便利に

しかし、その東急線への乗り入れ自体、実現を危ぶむ声もある。東急の事情に詳しい関係者は、声を潜めて「渋谷方面への乗り入れは難しいのではないか」と言う。東横線は乗り入れる路線が多く、ダイヤが複雑だからだ。そこへ相鉄が割って入ることははたして可能なのか。実際、東急が作成した資料を見るかぎり、相鉄線は目黒線だけと直通するように思える。なお、東急はこの資料について、「相鉄線が目黒線だけに直通するという意図はない」としている。

相鉄・JR直通線は大崎、渋谷、新宿方面へ向かう、湘南新宿ラインと同じルートだ。しかし、相鉄・二俣川以西の海老名、大和、湘南台は小田急線と接続しており、新宿方面への利便性がもともと高い。しかも小田急線は複々線化の完了で3月のダイヤ改正後は利便性がさらに高まる。

建設が進む羽沢横浜国大駅。相鉄は2019年度下期にJR線への乗り入れを計画している(撮影:尾形文繁)

朝ラッシュ時の海老名―新宿間は小田急なら現行から最大10分短縮し51分。同区間を相鉄・JR直通線を使って移動した場合は、おそらく58分程度を要しそうだ。JRの運賃が割高なことを考えれば、相鉄・JR直通線で渋谷、新宿方面に出る利用者はさほど多くないかもしれない。ちなみに横浜市は品川、東京方面への乗り入れも要望している。こちらのほうが利便性は高そうだ。

このようにさまざまな課題を抱えつつも、20000系登場で相鉄の都心乗り入れはがぜん現実味を帯びてきた。2月11日から実際の運行が始まれば、よくも悪くも相鉄の注目度がますます高まるに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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