トランプ政権がついに始めた「保護貿易」の罠 中国や韓国からの輸入制限は吉か凶か

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「大型減税」や「インフラ投資」も、予算をどこから捻出するのか。その詳細が決まっていない。トランプ大統領としては、見切り発車で政策を進めたいところだが、レーガン政権のように途中で財政問題が浮上して、最終的には「双子の赤字」で米国経済全体が衰退してしまったケースを繰り返したくない、という議会の思惑もあって簡単には予算が通過しない。

ところで、これら各種のトランプリスクの中で、最も懸念すべきものは何か。結論から言えば、筆者はトランプ政権が公約どおり「保護主義」を推進したら、世界は大混乱に陥ると考えている。保護主義の推進が、トランプ大統領最大のリスクと言っていい。

過去の歴史から見て、保護主義の台頭の行き着く先は、結局のところ帝国主義であり、戦争への道が広がってしまう。ロシア疑惑によって追い詰められつつあるトランプ大統領が、意地になって公約を守ろうとするあまり、貿易交渉で強気に出て決裂、取り返しのつかない事態を招くリスクもありうる。

決裂寸前の「NAFTA」見直し交渉?

実際に、現在トランプ大統領が掲げている貿易不均衡のターゲットとしては、次のようなものがある。

<NAFTA(北米自由貿易協定)脱退は時間の問題?>

大統領選のさなかから主張していたことだが、トランプ氏の支持地盤である「ラストベルト(RUST BELT)」を守るために「不公平な貿易に対しては貿易協定そのものを見直す」と主張し、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」の離脱、NAFTA見直しを公約に掲げていた。

そのNAFTA見直しが、就任1年後を経た現在も続いているわけだが、当初はバノン首席戦略官(当時)をはじめとする強硬派が画策した協定脱退方針に大統領が署名する寸前までいったと報道されている。

しかし、ここに来てロシア疑惑や女性問題、人種差別発言などで追い込まれたトランプ大統領が、NAFTA脱退を強行するのではないかと懸念されている。1月10日、大手通信社のロイターなどが「トランプ大統領がまもなくNAFTA離脱を表明すると、カナダ政府が確信を強めている」と報道したからだ。米国がカナダとメキシコにNAFTA離脱を通知した場合、6カ月後には脱退が可能になり、メキシコの政府関係者は「離脱の通知を受ければ、その瞬間に交渉はストップする」とコメントした。

報道を受けて、株式市場や為替市場も動いた。連日、高値更新を続けていたニューヨークダウも、さすがにNAFTA離脱の情報が出た日は下げて終わっている。

<太陽光パネルと洗濯機に「セーフガード」発令>

大統領選では、中国に対しては勇ましい言葉が飛び交っていたのだが、就任と同時にトーンダウンし、アジア歴訪で訪中した時には、最後まで貿易不均衡に対する具体的な話は出なかったとされる。「就任当日に中国を為替操作国に認定する」と繰り返し叫び、さらに「中国の知的財産権の侵害で、米企業は甚大な被害を受けている」とも指摘していた。

習近平中国国家主席の策にまんまとはまったのか、それともいまだに中国が北朝鮮の核武装を回避してくれると本気で思っているのかは定かではないが、トランプ大統領が中国との貿易不均衡に対して、これまでは我慢強く耐えてきたのは事実だ。

そのトランプ大統領は、就任2年目入って最初にやった仕事が「セーフガード(緊急輸入制限)」の発動だった。

次ページ16年ぶりのセーフガードの発動
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