ドイツ、「敗者の大連立」では亀裂修復できず メルケルも過去の人、伝統政党の危機は続く

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 この結果、ドイツでは再選挙の可能性が急速に浮上した。その理由は、メルケル首相が「少数派与党政権は、ドイツでは機能しない」と断言していたからだ。だが再選挙となると、政治の空白が今年の夏ごろまで長引く危険がある。フランクヴァルター・シュタインマイヤー連邦大統領は再選挙を避けるべく、各党の党首と会談。特にSPDのシュルツ党首に対しては、野党席に戻るという決定を考え直すよう求めた。シュタインマイヤーは、シュルツと同じSPDに属している。大統領に請われたシュルツは、「下野宣言」を撤回して大連立政権に前向きの姿勢を取り始めた。

筆者はドイツの政局を28年前から定点観測しているが、大政党の党首がこれほど右往左往するのを見たことは、一度もない。SPDの草の根の党員からは、「シュルツは連邦議会選挙の直後には、野党になると断言した。その舌の根も乾かぬ内に、再びCDU・CSUと組み、メルケルを首相の座に押し上げる梯子の役目を務めるのは、我が党の信用性を失墜させる」という強い批判が出た。SPDの代議員の44%が、大連立に反対する票を投じたことは、現在SPDが事実上の分裂状態にあることを示している。

政策アウトラインをめぐり紆余曲折も

SPDの青年部や地方支部では、臨時党大会の直前にCDU・CSUとSPDの幹部らがまとめた新政権の政策アウトラインについても、不満の声が強い。SPDが求めていた所得格差の是正に関する重要な提案が削られたからだ。たとえばSPDは、民間健康保険を廃止して、すべての国民が加入する「市民保険」を創設し、富裕層と低所得層が受ける医療サービスの格差を減らすことを求めていた。さらに、富裕層に対して所得税率を引き上げ、低所得層の税負担を減らすことも提案していた。今年1月12日に発表された、準備協議の合意内容からは、これらの主張は抜け落ちている。

SPD指導部は臨時党大会で代議員たちに対し、「CDU・CSUとの連立協定書に関する本交渉では、医療サービスの格差是正や、難民の家族の呼び寄せに関する規則の緩和などを要求する」と代議員たちに約束した。このため、連立協定書の内容をめぐる議論には、今後も紆余曲折が予想される。

しかしCDU・CSUは準備協議で合意した政策アウトラインを大幅に変更したり、新しい政策を盛り込んだりすることについては、強い難色を示している。

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