「管理職1年生」が陥りやすい部下育成のワナ できない部下の育成は「メリット」次第

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彼らに対する育成方針は上位人材のそれとは少し異なり、①クリアすべき最低水準の明示、②能力に応じた裁量範囲の設定、③一番身近で働く人によるトレーニングなどになります。

下位人材の場合は、日常の仕事に対する時間差のないフィードバックと、小さな成長をその都度承認することが大切です。したがって、身近で仕事をしている人にその役割を担ってもらうことが効果的です。

ミドル人材には上位人材の影響力を活用する

上位と下位にはさまれたミドル人材の育成はどのように考えればよいのでしょうか。

部下の数が3~4名と少なければ、管理職自ら指導することができますが、10人を超えてくると、全員に手をかけることは必ずしも効率的ではありません。そのような場合には上位人材の力を借りるとよいでしょう。上位人材にミドル人材育成のための協力をお願いすることにより、次々と成果を出していくカッコいい上位人材を見て、「早くあの人のようになりたい」というメンバーの気持ちを刺激します。

この点に関しては、シンクロナイズドスイミングで、日本チームに何度もメダルをもたらしてきた井村雅代日本代表ヘッドコーチの指導方針も同様です。頂点アップの選手育成を信条とする井村コーチは、あるテレビ番組の対談でこのようなことを語っていました。

「コーチの仕事は、最も力のあるトップ選手のレベルをさらに引き上げることである。そこには見本がないので、コーチの力が必要になる。残りの選手は、見本となるハイ・パフォーマー選手(能力の上位選手)に食いついていけば、自然と成長していく。それはコーチの仕事ではなく選手自身の仕事である。平均的な選手に合わせてチームづくりをしたのでは、とても世界では戦えない」

管理職としてすべてのメンバーに成長してもらいたいという気持ちはとても大切です。しかし、さらに大切なことは、自分のチームの特性を良く見極めて、チームの成果を最大化するために、正確にはチームの成果を持続的に最大化するために、その気持ちを具体的な育成方針に落としていくことです。競争力のある強いチームの中にいることでメンバーが多くの成長機会に出会い、最終的には一人ひとりの成長が促進されるのです。

櫻田 毅 人材活性ビジネスコーチ

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さくらだ たけし / Takeshi Sakurada

アークス&コーチング代表。九州大学大学院工学研究科修了後、三井造船で深海調査船の開発に従事。日興證券(当時)での投資開発課長、投資技術研究室長などを経て、米系資産運用会社ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルティング部長。その後、執行役COO(最高執行責任者)として米国人CEO(最高経営責任者)と共に経営に携わる。2010年に独立後、研修や講演などを通じて年間約1500人のビジネスパーソンの成長支援に関わる。近著に『管理職1年目の教科書』(東洋経済新報社)がある。

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