ヒトの脳は「他人を裁く」ようにできている 「暴走する正義漢」を止める方法はない

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暴走する「正義漢」(こうした表記に引っ掛かりを感じる読者はひょっとしたら、サンクションを発動させやすいタイプの人かもしれません)を止める方法としては、その方の気力・体力が衰えるのを待つ以外に、有効な方法が考えにくいのです。

もちろん、脳には可塑性があるので、時間をかければどんなことでもまったく不可能ということはないでしょう。ただ、たとえば行政等の観点から言えば、はたして高齢者に費用と労力と時間をかけてその暴走を止めていくことに、どれほどのコストパフォーマンスが期待できるか、といった議論が想定されます。

特にテストステロンの分泌量が多い男性は、前頭葉が担っているブレーキの機能が脆弱になっていると、心ゆくまで他者を攻撃し、ボロボロに傷つけて快感を覚える、ということをやめられなくなります。DVの加害者側に見られる心的状態にも、類似の構造があります。

他者を殺傷することが許される国ではないのに…

日本は法治国家であり、原則として私刑という形で報復的に他者を殺傷することが許される国ではありません。その法治国家の住人であるにもかかわらず、「私刑を加えても自分だけは許される」「先にルールを破ったのはこいつだから、どんなに制裁を加えようがかまわない」「善良な国民である俺の気分を悪くさせたこいつを許しがたい(謝罪しろ!)」という、認知の歪みが生じるのです。これは一見、不可解に見えますが、ごく一般的に起きていることです。

「サンクションを加えたくなる衝動」を感じたことがないという人がいるかもしれません。でもそれは、感じたことがあっても忘れてしまっているか、感じたことを他の人には知られたくない、という人だと思います。

制裁を加えることによる直接的なメリットは、本人にとってはゼロですが、規範を逸脱した人に対して制裁を加えることは、「正しい」あるいは「世のため人のため」と(少なくとも本人には)認知されています。敢えて相手に対して言いにくいことを言ったり、世のため人のために誰もがやりにくいことをやっている自分は、正しくて善良な素晴らしい人間である、とさえ感じています。

それでは、誰かに対して制裁を加えたいという気持ちが高まることで得をする人は、一体どんな人なのでしょうか。

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