熊本の温泉街でイタリア料理店が繁盛のワケ 菊池市のUターン転職組が成功させた農と食

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耕作放置された棚田を活用してクレソンを生産する田中教之さん(本人提供)

大学卒業後、東京都のIT企業に就職し2008年、熊本県の飲食コンサルタント会社に転職した。クレソンの生産を始めたきっかけは、「九州圏でクレソンの仕入れ先を探して欲しい」という、東京で飲食チェーン店を運営する友人からの依頼だった。

生産者を探すが量を確保できるだけの仕入れ先が見当たらない。生まれ育った場所を見渡すと、高齢化によって農業の担い手が減り、耕作放棄された田畑が目についた。

クレソン栽培に必要不可欠な水には事欠かない。この地の利を生かし、耕作放棄された棚田を活用して、田中さんはクレソン作りを始めることを思い立った。昨年には福岡県内の大手スーパーと契約し、業務用だけでなく小売り販売も拡大しようとしており、「現状は、生産量が追い付かない状態だ」(田中さん)。

1人では限界があることから、熊本県のほか福岡県、佐賀県、静岡県などの農家との契約も進めている。クレソンは水はけが悪く、日当たりが悪いところのほうが育ちやすい。コメ、トマト、しいたけなどの農家に、使っていない畑で作ってもらえば、「売り上げが月3万円でも、高齢の農家の方々は孫に小遣いをやれると喜んでくれる」と田中さんはいう。

これら地元食材を使った料理を提供する、飲食店もUターン組が元気だ。

かつては、男性客を中心とした団体客がコンパニオンを呼ぶ宴会型の温泉地として栄えた「菊池温泉」。菊池市の宿泊客は1989年の約44万人をピークに、現在ではその半数程度にまで減っている。

お世辞にも活気があるとはいえない温泉街の中ほど、スナックと小料理屋の隣にイタリア料理店「コントルノ食堂」がある。建物の奥にある店の扉を開けると、カウンターに熊本市内から訪れたという男女2人、福岡市から男性1人、テーブル席には大阪府、東京都から訪れた2人の客がいた。

手書きのメニューには「菊池産モッツァレラ」の前菜や、「菊池産の有機小麦と有精卵」を使った手打ちパスタ、「菊池農場のあか牛」ローストなど、地元食材を使った料理名がずらりと並ぶ。

客単価1万円でも大繁盛

「地元の食材のおいしさに気付いてもらう場所にしたい」とイタリア料理店「コントルノ食堂」をオープンした菊池健一郎さん(本人提供)

コントルノ食堂の菊池健一郎さん(43歳)は、「肉、小麦粉、野菜、卵などできる限り地元のものを使うようにしている」と話す。菊池市は農業・牧畜業を中心に第1次産業従事者の比率が約2割と高い。

他県から訪れる人が菊池市の食材のおいしさを知るきっかけを作り、生産者が元気になれば菊池市の活気にもつながると考え、2015年にコントルノ食堂をオープンした。

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