「小さい政治」を捨て去れ、価値の創造こそ政治の役割--田中直毅

「小さい政治」を捨て去れ、価値の創造こそ政治の役割--田中直毅

安倍、福田と2代続けての政権投げ出しの事態に、政治への信頼は失われてしまった。衆参ねじれの下で政治は停滞し、すべての政策課題は先送りになり、社会には閉塞感さえ漂っている。さらに追い打ちをかけるように米国発の金融危機をきっかけに世界同時不況の足音さえ聞こえてきた。

経済の低迷と広がる格差。政治のリーダーシップが見えない中で、日本の政治に何が欠けているのか。そして年内にも予想される総選挙で国民はどんな選択をすることになるのか。評論家で国際公共政策研究センター理事長の田中直毅氏に聞いた。

福田首相の辞意表明のあった当日に、インドのニューデリーで講演をしました。インド国際経済関係研究所の主催で日本産業の新局面を話しました。そこでの印象的な出来事をまずお話しします。

講演前の関係者だけが集まった席で、インド生まれのアメリカ人ジャーナリスト(米『ニューズウィーク』誌国際版編集長)、ファリード・ザカリアの新作、 『The Post‐American
World』がひとしきり話題になりました。というのも、私の講演の5時間後に、まったく同じ会場でザカリアが話をする予定だったのです。

ザカリアの著作では、日本がまったくと言っていいほど登場しません。インドや中国、ロシアについては当然、詳述されています。ヨーロッパや南北アメリカの行方についても書かれている。ところが章や節といった単位で日本について言及されている部分がない。彼の視界には日本が入ってきていないのです。研究所のクマール所長は、講演ではこれを覆すだけの迫力が欲しいね、と半ば冗談ですがプレッシャーをかけてきました。私の講演とザカリアの講演の聴衆は同じではありませんが、インドの人たちに対して、今の日本観を覆すのは難しいのではという雰囲気もありました。

なぜ日本が消えたのか 海外からの冷めた視線

「機影が消える」という表現がまさにぴったりですが、国際社会での日本の存在感は急速に低下しました。世界の実質成長率を見ると、比較できる最新のデータでは4%以上成長した国は3ケタに上っています。もちろんサブプライムローン問題による金融危機で、今年あるいは来年は不透明感が強まっていますが、少なくともこの数年、世界の多くの国が成長する中で、日本は(回復しつつあるといえども)低い水準にとどまった。

インドを含め世界のコンセンサスを言えば、低成長で人口減が続く日本には、もはや販路開拓の投資は見合わない、というところでしょう。

アフガニスタン支援のためインド洋上での給油活動からの再度の引き揚げもありうるといった政治・外交上の動きだけでなく、日本のマーケットへの投資は見合わないという認識が広がる中で、さらに政治的な混迷が深まれば、日本の活路をどう切り開くつもりなのか、というのがインド側の認識でした。

そこで私がインドで強調したことは、日本の産業の進化にかかわる認識です。地球環境が大きなテーマになり、原油価格が高騰する中で、日本企業がどう生きる道を探そうとして格闘しているのかということでした。

エネルギーや素材価格が高騰する中で、素材代替から始まり、部品の多機能化、軽量化と小型化、さらにそこから新たにアウトプットされてくる製品品目と新価格体系こそ、新情報の宝庫といえます。環境や省エネルギーに対応した日本からアウトプットされる製品や価格は、これまで存在している一般的・伝統的な商品の価格体系にも当然、影響を与えるはずだからです。

日本を中心に生まれる新しい価格体系、ここには経済のインテリジェンスがある。将来に向けてどんな投資をするべきかというときには、新しい価格体系、新しいマーケットにこそ注目せねばならない。日本の産業内部にはそうした動きが出始めている。金融を含め世界の経済人は、そうした動きに鈍感であってはいけない、と述べました。情報の位置づけが変わる中で、日本の産業内部の格闘、挑戦は無視できない動きになると指摘したわけです。

もっとも外国から見て、日本の存在感が薄れているのはそれなりの理由があります。戦後、日本の名がどのように浸透したかを言えば、それは成長率の高さです。高度成長はIMF・GATT体制という自由貿易体制の中で実現できた。

品質や価格で他国より優れたものを作ることができれば、武力に訴えることなくマーケットを開拓できる。日本の成長は、第2次世界大戦後に成立した国際情勢の下でこそ、実現可能でした。だからこそ日本は成長が止まってしまえば役割が終わり表舞台から退場する、大まかにいってそれが世界の見方です。

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