50~60代に激売れする伊勢半「口紅」の正体 韓国「オルチャンメイク」好きにも波及?

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まず、商品開発にあたり、約1万人の女性に調査をしたという。すると、驚きの事実が発覚。普段口紅を塗るときに「紅筆」を使う人が50~59歳で75%、60~69歳が81%もいたのだ。

開発を担当した、伊勢半・開発本部の池戸和子さん(撮影:尾形文繁)

さらに、「若々しいツヤ感とうるおいはほしいがテカテカはイヤ」「くすみをカバーしたい」といったニーズや、加齢により深い縦ジワが増え「輪郭部がぼける」という悩みが浮上。市場に出回っているリキッドルージュに対する「落ちやすい」「輪郭が描きにくい」などの不満もわかった。

そこで、競合が出しているチップ式ではなく、「形状を紅筆にして口紅と合体させてしまおう!」というアイデアに至ったという。要望を落とし込むため、特に発色にはこだわり、「生き生き感」や、「ツヤ」とのバランスをとことん追求。ニーズどおりのテクスチャーの実現にもかなり苦労したそうで、「垂れないけど硬すぎない『粘度』や、口紅らしい厚みを出す『皮膜感』の調整を試行錯誤した」と、開発を担当した池戸和子さんは語る。デザインも、ターゲット層が華やかなものを好むことから、「持った時の高揚感」を意識し、ゴールドでキラキラ感を強調した。

購買層のメインは狙いどおり50~60歳代の女性だ。True Dataの調べによると、2017年6月度のドラッグストアにおけるリップカラーカテゴリーでの販売個数は1位で、特に50代と60代で上位を独占した。

価格も1100円(税抜)と手ごろなため、ネットの口コミなどで「この値段のクオリティとは思えない」との声を多数見掛ける。「今の50~60歳代は、『コスメのことをわかっている』という自負があり、デパートコスメとプチプラコスメを使い分ける。そんな彼女たちにあえて選ばれている」と、池戸さんは話す。

メーク&撮影の体験イベントが奏功

カチカチと端を回すと紅筆に紅がジュワッと出てくるこの仕組みを画期的と感じる人も結構いるようだ。コンシーラーなどではよく見掛けるが、リップアイテムとしては存在はするもののメジャーな形状ではないので新鮮なのかもしれない。

この使い方をうまく伝えることができたのも、ヒット要因として大きい。昨年6月から放送したCMでは、「カチカチ、スーッで輪郭くっきり。鮮やかに発色」と、特性をわかりやすく訴求。しかも、イメージキャラクターは、ターゲット層の青春時代にJJモデルとして人気を博した賀来千香子さんだ。その変わらぬ美しさに胸が熱くなり、ドラッグストアに駆け込んでしまった女性も多いに違いない。

越谷レイクタウンで行われた「きれい応援プロジェクト」の様子。この日は100名を超える女性がプロによるメークアップを体験(写真:伊勢半提供)

さらに、同社はフェルムの化粧品を体験できるイベント「きれい応援プロジェクト」も大々的に仕掛けた。ブランド名の認知度アップを目的に2015年から西日本を中心に始めたプロジェクトだが、プロのメークさんとカメラマンに無料でメークと撮影をしてもらえるので、毎回応募者が殺到。好評につき、2017年はこの新商品の使い方を伝える目的も兼ね、昨年6月から全国区で展開していったのだ。

「友だち同士のリアルな口コミが有効な世代」と、池戸さん。ほかのブランドではインフルエンサーを起用した販促を積極的に行うが、フェルムはターゲット層があまりネットを活用しない世代なので起用せず、このイベントに注力しているという。新商品が出足から好調だったのも、以前からイベントを通じファンが増えていたという点も大きい。来場者数は累計で4万人を突破し、CMとの相乗効果で売り上げは好調に伸びていった。

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