世界経済の一つの姿が頓挫、大きなパラダイム転換も--武藤敏郎・大和総研理事長

世界経済の一つの姿が頓挫、大きなパラダイム転換も--武藤敏郎・大和総研理事長

米国の大手投資銀行が次々と破綻、身売りに動く中、金融危機は世界の市場を混乱に陥れている。一方、日本経済の足元も危うくなってきた。2002年2月から続いた「いざなぎ景気」をも上回る戦後最長の景気拡大に終止符が打たれ、政治も混迷する中で先行き不安が高まっている。前日本銀行副総裁で7月に大和総研理事長に就任した武藤敏郎氏に、日本経済の見通しと金融危機の行方について聞いた。

--日本の景気拡大に終止符が打たれたといわれています。

07年10~12月期をピークに、下降局面に入ったと見ています。今年の4~6月期のGDP(国内総生産)成長率は4~6月期の法人企業統計季報の数字を受けて、年率換算で1次速報値のマイナス2・4%から同3・0%へ下方修正されました。7~9月期のGDP成長率は、さらに下方修正になる可能性が高い。

大和総研は8月末に、08年度の日本の実質GDP成長率を0・5%、09年度を1・1%とする見通しを発表しました。0・5%はシンクタンクの中ではかなり低い見通しですが、さらに下方修正されると思います。

背景には、二つの要因があります。

一つは、資源価格・食料価格の高騰です。日本は食料自給率が非常に低く、資源が乏しく、海外に依存せざるをえない。そうした中で、企業は今までどおりに収益が確保できなくなってきている。交易条件が悪化しており、所得が海外へ流出しています。海外流出はGDPの5%相当ぐらいと見ています。これは日本経済の足を引っ張る要因です。

もう一つは輸出の減速です。02年から始まった経済拡大は、輸出主導でしたが、最近では輸出が大幅に減ってきている。米国経済の減速、そして、その影響を受けたヨーロッパ、あるいは新興国の景気も陰り、世界経済全体が減速している。日本の対米輸出は07年からすでに、マイナスでしたが、そのほかの地域に対する輸出が好調だった。その頃、デカップリングなどと盛んに言われましたが、それは単なるタイムラグだったということです。

戦後最長の景気拡大の中で、日本銀行は、「生産・所得・消費」の循環メカニズムが機能していると言ってきた。輸出増→生産増→企業の所得増→家計の所得増→消費増ということで、グルッと循環していく。このように景気がだんだんよくなってくれば、このメカニズムが拡大していくだろうと見ていたわけですが、そういうことが本当にしっかりとは根付かないまま、景気減速局面に入ってしまいました。

--この間の日本銀行の金融政策は適切であったといえますか。

03年から今年まで、副総裁でしたので、自分で評価するというのもどうかと(笑)。ですが、その点を差し引いてみても、06年までの量的緩和政策、その後の量的緩和政策の脱却から2度にわたる金利引き上げは当時としては、適切に経済に対応した姿だと思っています。

サブプライム問題に伴う昨年の8月以降の国際金融市場の混乱の中では、身動きできない状態になっています。日本銀行として、今、どういう政策対応があるかといえば、景気が減速しているので、利上げをするには相当距離がある。一方、0・5%という金利水準は、物価水準が上がってきているので、実質値で見ればマイナス領域。利下げをするというのも考えにくい状態です。

--スタグフレーションに陥るリスクはあるのでしょうか。

7月のコアCPI(消費者物価指数、生鮮食品を除く総合指数)の前年同月比2・4%上昇という数値は、日本の歴史から見ると高い水準です。8月、9月も2%台になっていると思います。ですが、その後は、だんだん減衰していき、09年度には1%前後まで下がると見ています。インフレが高進していく状態ではなく、スタグフレーションの可能性は高くないと思います。

エネルギーや食料の価格を除いたCPIは7月でも前年同月比プラス0・2%にとどまっており、6月もプラス0・1%で、ほぼ横ばいの状態にある。原油価格は今年7月にWTI先物価格で1バレル=147ドルをつけましたが、今は100ドル以下まで下げています。原油価格がこのまま横ばいで来年の春まで推移すると、統計のアヤですが、前年比でマイナスになります。再び原油価格が140ドル台に上がっていく可能性は高くないと思います。また、食料は長期的には増産可能な財なので、価格は安定化に向かう可能性が高い。

賃金が上昇していけば、賃金と物価のスパイラルが心配ですが、賃金はごく最近、横ばいないし、微減の状態になりました。企業の収益も減益基調なので、株主への配当は増やしても、賃金単価は抑制しようという姿勢が見られます。

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