パナソニックが女性CTO起用で目指す「次」 「テクニクス」を再構築した小川理子氏の挑戦

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――グローバルではポータブルオーディオが伸びている。加えて、クロスバリューという意味では、パナソニック アビオニクスが高いシェアを持つ航空機向けエンターテインメントシステムなどにも展開する必要があるのでは?

小川ヘッドフォンはまだ明確なラインナップを作れていませんから、今後の課題として認識しています。航空機内のエンターテインメントに関しても、消費者との接点という意味では重要ですね。ただ、今年のテクニクスという意味で言えば、オーディオ愛好家ではないが音楽が好き。そんな人に、より奥深い音を提供するよう裾野を広げる年にします。趣味として音を楽しむ。そんなぜいたくな大人の文化を若い世代にも知ってもらえる製品をと考えています。

技術本部長として目指す方向は?

――小川さんは、アプライアンス社全体の技術本部長(CTO)を担うことになりました。もともと、スピーカー開発のエンジニアとしてキャリアをスタートさせた小川さんですが、どのような方向にドライブしていきたいと考えていますか?

【1月19日16時30分追記】初出時の上記質問内容は「アプライアンス社の中では、ホームエンターテインメント事業の技術本部長として、CTOのような役割を担うことになりました」と表記しておりましたが、上記のように修正しました。

小川:事業部のための研究開発を行っている技術本部は、顧客の手元に届く製品とはかけ離れたことをやる場合もある、普段はあまりスポットライトの当たらない部署です。そこに陽の光を当てて、商品開発の前線と一緒にパナソニックの未来を考えていく場をつくっていきたいですね。

――研究開発部門と製品を開発して販売していく事業部の間は、どのメーカーも軋轢が生まれやすい。相互のコミュニケーションを活発にするということでしょうか。

小川:商品開発においてアイデアレベルで終わる企画はたくさんあります。技術本部がもっと商品開発の現場に踏み出すことで、新しい商品企画が生まれるきっかけをつくれると考えています。私自身、過去に技術本部と事業部の間に挟まれた経験もあるので、風通しをよくして、技術力がストレートに商品へとつながっていく流れをつくりたい。

――技術者出身とはいえ、パナソニックのCI(コーポレートアイデンティティ)事業などに取り組んできた小川さんが技術本部を率いるというのは率直に言って意外性があります。なぜ自分が技術本部を任されたと思いますか。

小川:直接は聞かされていませんが、1つは女性としての感性を生かせということかもしれないです。今までとは違うことをやってくれるかもしれないという期待もあるのでしょう。アプライアンス社の製品には、調理、美容など女性が接している領域が多い。パナソニックのアプライアンス事業の中でも活性化している分野が多いので、そこに自由な発想を持ち込みたい。そのうえで、技術本部と商品開発現場の距離を縮めていきます。

【インタビューを終えて】

小川氏へのインタビューを終えたタイミングで、たまたま、小川氏を技術本部長に任命したパナソニック アプライアンス社の社長、本間哲朗氏がテクニクスブースに到着した。本間氏に「なぜ小川理子氏を抜擢したのか」と尋ねると次のように話した。

「彼女には誰よりもネットワーク事業の経験がある。他社と協業し、1つの価値としてまとめる仕事をやってきた。任命した理由はそこ。それ以外にはありません」

そう本間氏が話したのは、2001年に設立されたeネット事業本部のことだ。ここで小川氏は部長として若手の部下を指揮し、さまざまなデジタルネットワークサービスの企画、開発、運用、デジタルコンテンツの営業などを担当した。当時、直属の部下だった人物には、その後スピンアウトしてネットワークハードウエアベンチャーの草分け“Cerevo”を設立した岩佐琢磨氏もいた。

LTEの時代から5Gの時代へ。街全体がネットワーク化されていく中で、家電製品がどのように結びつき、価値を創出していくのか。今後3年のテクニクス以上に、今後3年の“ネットワーク”に対する取り組みは、パナソニック全体にとっても重要なものになっていくだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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