「原油価格がもう一段上昇する」と読む理由 シェール革命でも「1バレル=70ドル台」は目前

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ひとことで現状を語れば、シェールオイルの生産者には、非常に難しい判断が求められるというわけである。つまり、むやみやたらに生産はできないということになり、増産にも慎重にならざるを得ない。いずれにしても、このような状況では、原油価格はいったん上昇できるところまで上昇し、その後シェールオイルの増産が進んで、下落に向かうと考えるのが妥当であろう。

一方、米国内の石油需給に関しても、いまいちど理解しておく必要がある。実は、米国内の需給が原油高を支えている可能性があるからである。

どういうことか。EIAが発表した1月5日までの週の米国内の原油在庫は前週比490万バレル減と8週連続で減少した。一方、石油製品在庫はガソリンが410万バレル増、ディスティレート(留出油)が430万バレル増といずれも大幅増となり、統計全体では強弱まちまちの内容だった。

米国内の原油在庫の減少ペースはかなり早い

しかし、寒波の影響で米国内の原油生産が日量94万バレルと、前週比29万バレル減少している。このように、現状はやや複雑な内容ではあるが、ここで注目したいのは、原油在庫の減少ペースが相当早いということである。直近では4億1951万バレルであり、2017年の同時期は4億7901万バレル、2016年では4億5095万バレルであり、これらを下回っているのである。

さらに注目すべきは、石油製品在庫の需要に対する在庫日数である。最近はガソリンやディスティレートなどの製品在庫が増えているため、需要が弱いと思われているようだが、これは大きな間違いだ。米国内の石油需要は2008年の金融危機以降で2008年に次いで高い水準にある。また、現在の在庫日数は約18.4日分で、これも2008年と2009年に次いで2番目に少ない水準となっている。このように、実態を見ると、米国内の石油需給はかなり引き締まっていることが理解できる。しかし、市場関係者の多くはシェールオイルの増産ばかりに目を向けており、明らかに視野が狭いといえる。

OPECの減産を米国のシェールオイルの増産が相殺するとの見方が多いが、それは一見正しいかもしれない。しかし、それ以上に需要が増えれば「問題がない」わけである。現在の世界経済の好調さを考慮すれば、2018年も日量160万バレル程度の需要増が見込まれるだろう。

そうなれば、むしろ相当量の増産をしないと需給バランスが合わないことになる。その結果、OPEC加盟国・非加盟国による減産が効いてきて、原油価格は徐々に下値を切り上げるだろう。筆者が考えるWTI原油のフェアバリューは65ドルから75ドルであることは、本欄で何度も示してきた通りである。また、年末までに最大で79ドルまでの上昇を見込んでいるが、ファンダメンタルズが現状のまま推移すれば、到達は十分に可能であると考えている。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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